STEM教育を単に「理系人材育成」と考えたら大間違いだ
中村氏は、その「広くて深い思考ができること」こそが、AI時代に高めるべき能力ではないかと説く。他人よりも広く深く考えられるから、誰も思いつかないような創造性を発揮でき、どんな難題にも立ち向かえる問題解決力につながる。だから、容易にAIに取って代わられるようなこともない。
では、どうすれば「広くて深い思考」を子供たちに身につけさせることができるのか。その第一歩は、子供たちの「自由」を取り戻すことだ。
自由とは「自分の考えを持つこと」
近年、企業でも「新入社員はすぐにマニュアルを求めてくる」と嘆かれているように、「自由に」「好きなように」と言われると、途端に何もできなくなってしまう人が増えている。それは、本来自由な発想に満ち溢れているはずの子供たちでも同じだ。
学校や塾、受験では、どうしても「正解」を求められる。さらに親が教育熱心であれば、正解すれば褒められるし親も喜んでくれるが、間違えば叱られるか落胆させてしまう。だから子供たちは「正解」だけを求めるようになる。他人に評価されることが「良い」と思ってしまうのだ。
だが、社会に出て自分らしく活躍できる人材になるには、そして、AI時代に輝きを持って生き抜いていくには、「自分で考える力」が欠かせない。それは言い換えれば、「自由に考えられるかどうか」だ。自由とは「自分の考えを持つこと」なのだ。
STEMの4分野は「ものの仕組み」を知る学問だが、ただ原理や法則を暗記するのではない。それらが生活の中でどのように活かされているか、さらに自分自身がどう活用できるのかを、実感を持って知ることが大切だ。それが学ぶ楽しさにつながり、自由に、自分の頭で考える力となり、AIが苦手とする「感性」と「直観力」をも養っていく。
例えば「ステモン」では、歯車の原理を利用して「遊園地にあるような乗り物をつくろう」という取り組みをする際、最初の10分で基本原理を学び、次の40分でその原理をもとに制作し、最後の10分で実際に試して動かすという。その際、簡単な手順は教えるが、組み立て説明書はなく、何を作っても自由だ。
こうしたSTEM教育が有効である理由は、中村氏によれば4点に集約される。①コンピュータを活用する力を育むことができる、②教科横断の知識を応用しやすい、③子供が試行錯誤しやすい、④オープンエンドの課題設定(自分なりの答えを出す)、だ。