【間違いだらけのAI論】AIはなぜ経済成長をもたらしていないのか?
AI BENEFITS STILL TO COME
成長の伸びが遅いのは驚くことではない。汎用技術の真の可能性がはっきりするまでには時間がかかり、企業がそれを製品化するにはさらに時間がかかるからだ。つまり、AIが急成長している時期に生産性が停滞していることには何の不思議もない。
無形資産投資は多いのだが
ともあれ、AI関連ビジネスの加速は喜ばしいことだ。アメリカでベンチャーキャピタルを取り込んでAIシステムを開発している民間企業の数は、2000年の14倍に達している。AIによる工業用ロボットも急増中だ。2003年から2010年にかけて、世界の工業用ロボットの数はほぼ変わらなかったが、2010~2014年には2倍近くに増加。2020年までには2014年の約3倍になると予想される。
しかし多くのAIプロジェクトは、依然として研究開発の段階にある。つまりソフトウエアやデータベース、デザイン、エンジニアの訓練といった無形資産への投資は多くても、経済統計の数字に結び付く具体的な製品への投資は少ないということだ。
昔ながらの自動車業界を見ても、無形資産投資が増えているのが分かる。自動車に搭載されるソフトウエアの価値が完成車の価値に占める割合は、2000年段階で7%だったが、2010年には10%に達した。この比率は、2030年には30%まで上がると考えられている。
国の統計部門は、国民経済計算の算出法をより現実に即したものにしようと努力している。しかし、よほど革新的な方法が採用されない限り、新たな汎用技術の普及による経済効果をGDPに反映させるのは難しいだろう。
AI分野における期待が大きいからこそ、現実との乖離が目立つのかもしれない。OECD(経済協力開発機構)はこう報告している。グローバルな最先端分野で開発される新しいテクノロジーはこれまでにないスピードで世界に広まっているが、既存の経済において多くの企業が取り入れるようになるにはまだ時間がかかる、と。
中小企業の多くは今も、第3次産業革命であるIT革命の成果を使いこなすのに悪戦苦闘している。AIを取り入れるのはまだまだ先の話だ。
しかもAI導入のプロセスでは経済的な損失が生じる。デジタル資産とそれを使いこなすスキルの習得に多くの資金と時間をつぎ込む必要があるからだ。また移行期には在来の製造工程も維持する必要があるから、その間は二重のコストがかかる。自動運転車がいい例だ。消費者の手に届くのはかなり先だが、企業は既に莫大な資金と人材と時間を費やしている。
しかし、今は我慢の時だ。過去の技術革新の歴史が参考になるとすれば、いずれはAI投資も報われる。ただし、それは2030年以後のことになりそうだ。そこまで耐える知力と体力が勝敗を分ける。
<2018年12月18日号掲載>
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