最新記事

技術革新

【間違いだらけのAI論】AIはなぜ経済成長をもたらしていないのか?

AI BENEFITS STILL TO COME

2018年12月11日(火)20時05分
エドゥアルド・カンパネラ(スペインIE大学フェロー)

AIが進化しても庶民がその経済的恩恵にあずかれるのは当分先だ(ニューヨークでの賃上げデモ) ERIK MCGREGOR-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<現在のAI論は間違いだらけ。私たちの生活はAIでますます便利になるというが、なぜ先進諸国の生産性は低迷しているのか。人工知能の進化が経済成長をもたらす日はいつ来るのか>



※12月18日号(12月11日発売)は「間違いだらけのAI論」特集。AI信奉者が陥るソロー・パラドックスの罠とは何か。私たちは過大評価と盲信で人工知能の「爆発点」を見失っていないか。「期待」と「現実」の間にミスマッチはないか。来るべきAI格差社会を生き残るための知恵をレポートする。
(この記事は本誌「間違いだらけのAI論」特集より転載)

IBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」がチェスの世界王者ガルリ・カスパロフを打ち負かしたのは1997年5月のこと。あれは人工知能(AI)技術の開発における歴史的瞬間だった。以来21年、今では携帯電話や車、冷蔵庫やテレビにまでAIが組み込まれている。

しかし私たちは、機械が賢くなったことの経済的な恩恵をほとんど実感できていない。先進諸国の生産性向上ペースは過去半世紀で最低の水準にあるし、各国のGDPや生活水準は何年も前から停滞気味だ。

この状況はある疑問を引き起こす。過去の技術革新は生産性を向上させ、ひいては経済成長や生活水準の大幅な向上をもたらした。例えば20世紀のアメリカでは、電気の普及が労働生産性に年率4%の成長をもたらした(今の成長率の4倍近い水準だ)。なのになぜ、いま先進諸国では生産性が伸び悩んでいるのか。この疑問に対しては2つの答え方がある。

1つは「今日のテクノロジーに問題あり」とする技術悲観論で、1870~1970年の経済成長を牽引した6つの革新(電気、公衆衛生、化学、製薬、内燃機関、通信)が秘めていた変革力は、例えばAIスピーカーなどと比べて格段に大きかったと考える。

もう1つは技術楽観論で、クラウドコンピューティングやビッグデータ、IoT(モノのインターネット)といった技術には真の変革を起こす力があり、既に世界中の企業や消費者がその恩恵を受けていると考える。それでも人が恩恵を実感できないのは、現在の経済統計にはそれが反映されていないからだとされる。

GDPの概念は1930年代、主に有形財の生産が中心だった経済の評価基準として築かれた。だが今では無形財やサービスが経済に占める割合が大きくなっている。GDPが無形財を適切に評価していれば、生産性の伸び率はもっと高くなるはずだと、楽観論者たちは指摘する。

どちらの主張にも一理ある。確かに電気は仕事や家庭生活に、グーグル・ホームよりも大きな変化をもたらした。一方で、GDPがグーグルやフェイスブックのように人々の生活を豊かにする無料オンラインサービスの効果を計算に入れていないのも事実だ。

数字に表れるまでに四半世紀

だが生産性低迷の謎には、もっと明快な(そして楽観論と悲観論の折り合いをつける)答えがあるのかもしれない。AI革命は「まだ本当に始まってはいない」から国の経済統計に反映されないという考え方だ。

実際、一般企業が新たなテクノロジーをうまく活用できるようになるまでには長い時間がかかると、経済学者のエリック・ブリニョルフソンやチャド・シバーソンは指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ICCのイスラエル首相らへの逮捕状を「根本的に

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中