軍用ドローンで世界はどうなる 〈無人化〉時代の倫理に向けて
つまり、問題は、「技術」や「テクノロジー」それ自体にも、「人間」がそれをどう使うかにもかぎられないということだ。本書が示すのは、とりわけ「人間の代わり」をもたらす「技術」の促進が、「人間」と「技術」の関わりを超えて、「人間」と「人間」の関わり、人間の「心理」や「道徳」、人間社会の規範を定める「法的」システムや「政治」体制、つまり「身体」をもって生きる具体的な人間たちの存在条件それ自体にどのように関わってくるか、ということだからだ。このような考察は、〈無人化〉時代の「倫理」(何をなすべきかを語る道徳論でも、いわゆる「技術者倫理」でもなく、人々の「住み処」を意味していた「エートス」の語源的な意味で)を考える上できわめて重要だろう。
日本の軍事ドローン研究
第二に、日本における軍事技術の開発という点に触れないわけにはいかない。本書は主にアメリカにおける事例を中心に扱っているが、日本も無関係ではないだろう。2014年4月に武器輸出が解禁され、同年七月に集団的自衛権行使容認が閣議決定され、2015年9月には安保法制が成立する。こうした政治的な流れは、産業界・民間企業、さらには大学をはじめとする研究機関を巻き込んで、社会全体で進められはじめている。
防衛装備庁が2016年8月に発表した「研究開発ビジョン」では、「航空無人機」が近い将来に主要な「防衛装備品」となるとし、重点的な研究・開発の促進を求めている。その開発には民間企業の技術力が期待され、すでに「ドローン等を用いた監視・検査の自動化・効率化」といったテーマでの構想設計が進んでいる。
他方で、防衛省は2015年度から「安全保障技術研究推進制度」を設立し、これまでの日本の慣例を打ち破るかたちで、大学における軍事研究の推進の方向性を打ち出した。日本経済団体連合会は同年9月に「防衛産業政策に向けた提言」を発し、大学にも「安全保障に貢献する研究開発に積極的に取り組むことが求められる」としている。実際、こうした情勢のなか、大学等の研究機関において、ドローンに関しても、軍事利用が十分に想定されるような研究がすでになされはじめている。
本書で示されている見解が、こうした日本の状況にどれほど合致するのかはそれぞれ検討しなければならないだろうが、「ドローンのある世界」についてさまざまな観点からなされた本書の根本的な考察は、われわれ自身の「未来」を考える際にも大きな助けとなるだろう。
渡名喜 庸哲(となき・ようてつ)
1980年生れ。慶應義塾大学商学部准教授。フランス哲学、社会思想史。主要業績に『カタストロフからの哲学――ジャン・ ピエール・デュピュイをめぐって』(以文社, 2015年, 共編)、『エマニュエル・レヴィナス著作集』(第1巻, 法政大学出版局, 2014年, 共訳)、ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で――破局, 技術, 民主主義』(以文社, 2012年)、 ジャン=ピエール・ルゴフ『ポスト民主主義時代の全体主義』(青灯社, 2011年, 共訳)などがある。
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