最新記事

テクノロジー

軍用ドローンで世界はどうなる 〈無人化〉時代の倫理に向けて

2018年10月10日(水)18時15分
渡名喜 庸哲


米軍のドローン「プレデター」のパイロットが訓練飛行する様子 Daily Aviation Archive / YouTube

「戦争」の変容

本書「ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争」は、遠隔技術がもともと博愛的ないし人道的とも言える動機を伴っていたことの確認から論が始まっている。地底の炭鉱、大火事や災害の現場、放射能で汚染された地域や破壊された原子力発電所の建屋、さらには深海、宇宙空間など、人間が生身の体では入ってゆくことのできない「過酷な環境」に介入するためにこそ、遠隔テクノロジーは活用されてきた。しかし、「戦争」という「過酷な環境」にこの遠隔テクノロジーが導入されるとき、いったい何が生じるのか。
歴史を振り返ると、軍用ドローンの原型は第二次世界大戦中のアメリカで生まれた。その後、ベトナム戦争および中東戦争における束の間の利用を経て、ほとんど忘れさられていたが、2000年代初頭、「コソボとアフガニスタン」のあいだに、「新たなジャンルの戦争」において脚光を浴びるようになる。冷戦終結とともに「核」の時代が終わり、湾岸戦争、イラク戦争、コソボ紛争を経て、戦争が「ヴァーチャル化」してゆく過程についてはこれまでも多くの考察がなされてきた。しかし、2000年代のRMA(軍事における革命)、すなわち情報通信技術を統合した「ネットワーク中心の戦争」において、ドローンの登場がさらなる変動を引き起こしている。

こうして生まれた軍用ドローンに「プレデター」、つまり「捕食者」という名前が付けられたことはなんとも意味深長だ。軍用ドローンによって、「戦争」は「狩り」に―つまり「人間狩り=マンハント」に―変貌するからだ。この変貌の不気味さは次のような対比からも理解されるだろう。2000年代初頭にアメリカで、実際の飼育農場に放たれた動物をヴァーチャルな遠隔操作で撃つというインターネット上のオンラインゲーム「ライヴ・ショット」が生まれたが、これに対し動物愛護団体からなんと全米ライフル協会にいたるまで猛反対の声があがった。しかし、まさに同じころ、「捕食者」ドローンによる「国際的なマンハント」計画が、さしたる抵抗もなく動き出していったのである。

しかしドローンは、これまでの武器と―とりわけ混同されやすいロケットなどの「飛び道具」とすらも―根本的に異なる特徴を備えている。ドローンは、「牙」であると同時に「眼」でもあるからだ。フーコーが注目した「パノプティコン」は、ギリシア語ではまさしく「すべてを見る」という意味であったが、「眼」はもはや刑務所の中央にではなく、空のあちこちに浮遊することになる。

ここには「監視社会」をめぐる言説と交差する分析が見られるが、著者のグレゴワール・シャマユーの目論見は、こうしたドローンによるハイパー監視社会の到来を予言することにはない。むしろ、ドローンの推進派たちの言説を仔細に読み込み、現在の軍用ドローンをめぐるイノベーションにおいて、どのような「原理」がすでに実際に提示されているかを明らかにすることが試みられている。三交代制のオペレーターによる恒常監視、ハエの眼のように複眼的な視野をもった総覧的監視、ただ見るだけではなく記録化・アーカイブ化すること、それをいつでも有効に引き出し関連づけるためのインデックス化、携帯電話やGPS等のほかの通信機器からのデータの融合、これらを組みあわせた「生活パターン」の分析等々だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

第4四半期の英GDPは前期比+0.1%、速報値から

ビジネス

スウェーデン中銀、金融引き締め必要も インフレ警戒

ビジネス

商船三井、205円起点に累進配当導入へ 機動的に自

ビジネス

中国、インフレ加速と成長リスクへの対応必要に=黄人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 5
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中