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金継ぎ工房や体験型ラウンジで地元伝統文化の継承支援...星野リゾートが重視する「CSV経営」とは

2024年10月8日(火)11時00分
ニューズウィーク日本版編集部SDGs室 ブランドストーリー

全国23施設で、伝統工芸や文化を伝える取り組みを実施

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「界 長門」のご当地部屋「長門五彩の間」和室

その土地の伝統工芸・文化の継承を支援する「界」では、「ご当地部屋」「ご当地楽」「手業のひととき」といった取り組みが展開されている。

「ご当地部屋」は、その土地ならではの文化や芸術に触れることができる客室だ。例えば、山口県の「界 長門」のご当地部屋「長門五彩の間」では、山口市の無形文化財に指定されている「徳地和紙」をヘッドボードに取り入れたり、「萩焼」の茶器や花瓶を配している。

地域の文化が体験できるサービス「ご当地楽」は、宿泊者が毎日無料で楽しめる。例えば栃木県にある「界 鬼怒川」では、伝統工芸「益子焼」をテーマにした「益子焼ナイト」が催され、実際に作品に触れながら、その歴史や特徴を学べる。食事や客室の茶器にも益子焼が使われており、滞在中にその魅力を感じた宿泊者が購入を検討することもある。

2021年からスタートした「手業のひととき」は、職人や生産者といった文化の担い手から直接手ほどきを受けることができる体験プログラムだ。希少な技を間近で見たり、職人や生産者との交流を通じて、伝統工芸品や文化への関心の向上に繋がっている。

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「界 鬼怒川」のご当地楽「益子焼ナイト」


「界 鬼怒川」のご当地楽「益子焼ナイト」

さらに、石川県・山代温泉にある「界 加賀」では、多くの宿泊者に対して、より深く石川県の伝統文化・伝統工芸を体験できる取り組みを開始した。その一つが、2023年4月に施設内に設立した「金継ぎ工房」だ。

「『界 加賀』では、九谷焼や山中塗といった伝統工芸の器で料理を提供していますが、日々使用していると劣化や破損は避けられません。それを廃棄せず、自分たちの手で器を守っていけるようにと、2019年から元蒔絵師のスタッフが『界 加賀』のスタッフに金継ぎの技術を広めました。天然漆にこだわった器の修復やワークショップの開催など、より本格的に金継ぎの活動に取り組んでいくため、工房を立ち上げたのです」と、「界 加賀」の総支配人を務める森下亜椰氏は話す。

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金継ぎされた器

同時に、宿泊者が金継ぎの一部の作業を体験できるプログラム「金継ぎいろは」もスタートした。プログラムは好評を博し、提供開始から1年3カ月で体験者数は3000人を突破したという。

加えて、2024年3月には国の登録有形文化財に登録されている紅殻色を特徴とした伝統建築棟に、「べんがらラウンジ」をオープン。九谷焼や山中塗など、石川県内の25名の職人や作家が手掛けた約100種類の作品から好みの器を選び、北陸のお酒とおつまみを楽しむことができる。

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「界 加賀」の「べんがらラウンジ」

森下氏はオープンの背景について、「金継ぎ工房の反響を受けて、伝統文化や技術への興味・関心が高まっていることを強く感じ、しっかりと収益も確保しながら、強力かつ持続的に伝統文化の継承支援を推進できると判断しました。オープンから半年で800名弱の利用があり、実際に作品や伝統工芸を使っていただくことで、国内外の旅行者にその魅力を伝えています」と語る。

小泉氏は、「事業を通じて、全国23施設・年間45万人もの宿泊者に対して、地域の魅力を伝え、経済的な利益を地域に還元しているという点は、温泉旅館ブランドとしてのスケールを活かしているからこその結果だと捉えています」と話す。

グローバル化が進む中で、世界規模で文化的多様性が失われることが危惧されている。今後地域の文化・伝統を守るために、世界中の企業がCSVの考え方を持つことが必要とされるだろう。その中で、少子高齢化の進む日本において、「界」の取り組みは伝統工芸・文化の衰退に歯止めをかける、CSV経営の好事例となるのではないだろうか。

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