無人駅がフロントで、空き家が客室? 地域全体をホテルに見立てた「沿線まるごとホテル」プロジェクトとは
駅から宿泊先までの田舎道も「ホテル」の一部。地域住民がキャストとなって魅力を案内してくれる
<沿線地域全体を「1つのホテル」に。眠っていた地域資源を新たな価値に転換するプロジェクトがJR青梅線沿線で展開されている>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや製品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えのもと、ニューズウィーク日本版はこの春、「SDGsアワード」を立ち上げました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
過疎高齢化による利用者の減少によって、事業運営が困難になっているローカル路線が日本全国で広がっている。今も存廃に揺れる路線も多いなか、鉄道インフラ維持のためにユニークな取り組みを展開しているのが、沿線まるごと株式会社だ。地域の課題を付加価値に転換する「沿線まるごとホテル」プロジェクトとは──。
「新たに何かを作るのではなく...」地域資源を活かした新しい旅行体験
過疎・高齢化が加速する地方部では、鉄道が廃線になることも珍しくなくなった。存廃について議論されている路線も多い。都内でもJR青梅線、特に青梅駅から奥多摩駅までの区間で乗車人数の減少が目立つ。昭和30年のピーク時には1万5000人以上いた奥多摩町の人口は現在、約3分の1にまで減っている。
そんななか、過疎地域によく見られる無人駅や空き家などを活用した新しいツーリズム体験を提供しているのが、沿線まるごと株式会社だ。
2020年11月に始動した「沿線まるごとホテル」プロジェクトについて、同社取締役の会田均氏は次のように語る。
「点在する地域資源を線路で線にしてつなげ、沿線地域をまるごと1つのホテルに見立てたプロジェクトです。新たに何かを作るのではなく、面(地域全体)としてリブランディングしていくことで東京から新たな地方創生モデルを発信し、交通等のインフラ維持を図りながら持続可能な地域をつくろうと取り組んでいます」
このプロジェクトは元々、JR東日本八王子支社と株式会社さとゆめが連携する形で動き出したものだが、本格的な事業展開にあたって翌21年12月に沿線まるごと株式会社が設立された。
プロジェクトの基本構造は、無人駅の駅舎等をホテルのフロントやロビーに見立て、改修した空き家をホテルの客室として利用してもらうというもの。新たな設備投資は最小限に抑えられ、空き家の有効利用にもなる。無人駅を訪れたり、古民家に滞在したりすることは、旅行者にとっても有名観光地では味わえない新鮮な体験を得られるという意味で魅力的だ。