「コーンシロップ」で地球温暖化と闘う...注目の「気候テック」ユニコーン、ソリューゲンの正体
Engineers Find a Zero-Carbon Way to Make Everyday Chemicals
ガウラブ・チャクラバルティ(左)とショーン・ハント(右)
<環境に害をなし、気候に悪影響のある材料のかわりに、コーンシロップなどの環境にやさしい材料を用いて工業化学製品を製造する方法を開発>
コーンシロップの入った沸き立つ大釜と聞いても、地球温暖化と闘うための武器とはなかなか思わないだろう。だが、ガウラブ・チャクラバルティ(Gaurab Chakrabarti)とショーン・ハント(Sean Hunt)は、それこそが、家庭や産業で日常的に使われる化学物質をカーボンニュートラルなかたちで製造する新手法の鍵を握っていると考えている。
化学工業をグリーン化すれば、世界の温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献できるはずだ。化学製品の製造から排出される炭素は毎年15億トンにのぼり、大気中に放出される全炭素の約3分の1を占める。そのほとんどは、石油の加工処理で排出されるものだ。
チャクラバルティが天啓を得たのは2015年。テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターで、がんの新しい治療法を研究していたときのことだ(チャクラバルティは、医学博士号と哲学博士号をもっている)。酵素(体内での化学反応を加速させるために、あらゆる生物がつくる化学物資)を研究していたときに、工業プロセスの化学反応を加速させるように酵素に手を加えられないかと考えるようになった。とりわけ関心をもったのは、酵素により、二酸化炭素などの厄介な副生成物を出さずに化学物質をつくれないだろうか、ということだ。
1年後チャクラバルティは、当時マサチューセッツ工科大学で化学工業を専攻する大学院生だったハントと手を組み、現在の製造プロセスで使われている、環境に害をなし、気候に悪影響のある材料のかわりに、コーンシロップなどの環境にやさしい材料を用いて工業化学製品を製造する方法の開発に乗り出した。ふたりは、ソリューゲン(Solugen)という会社を創業した。
同社CEOを務めるチャクラバルティは、「私たちが使っているシステムは、はるか昔から自然界に存在していたものだ」と述べる。「私たちに必要なのは、それがもっと効率的に生じるような環境をつくることだけだ」。チャクラバルティとハントは、従来の化学工学と、バイオエンジニアリングのノウハウに、人工知能を大幅に活用した新たなバイオ分子の設計を組みあわせて、製造プラットフォーム「バイオフォージ(Bioforge)」を考案した。高さ60フィート(約18メートル)のタンクに糖などの無害な材料を入れ、そうした材料を生化学反応にさらし、高密度のマイクロバルブ流によって空気を含ませる。