最新記事
SDGs

「コーンシロップ」で地球温暖化と闘う...注目の「気候テック」ユニコーン、ソリューゲンの正体

Engineers Find a Zero-Carbon Way to Make Everyday Chemicals

2023年8月18日(金)12時30分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)
ガウラブ・チャクラバルティ(左)とショーン・ハント(右)

ガウラブ・チャクラバルティ(左)とショーン・ハント(右)

<環境に害をなし、気候に悪影響のある材料のかわりに、コーンシロップなどの環境にやさしい材料を用いて工業化学製品を製造する方法を開発>

コーンシロップの入った沸き立つ大釜と聞いても、地球温暖化と闘うための武器とはなかなか思わないだろう。だが、ガウラブ・チャクラバルティ(Gaurab Chakrabarti)とショーン・ハント(Sean Hunt)は、それこそが、家庭や産業で日常的に使われる化学物質をカーボンニュートラルなかたちで製造する新手法の鍵を握っていると考えている。

化学工業をグリーン化すれば、世界の温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献できるはずだ。化学製品の製造から排出される炭素は毎年15億トンにのぼり、大気中に放出される全炭素の約3分の1を占める。そのほとんどは、石油の加工処理で排出されるものだ。

チャクラバルティが天啓を得たのは2015年。テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターで、がんの新しい治療法を研究していたときのことだ(チャクラバルティは、医学博士号と哲学博士号をもっている)。酵素(体内での化学反応を加速させるために、あらゆる生物がつくる化学物資)を研究していたときに、工業プロセスの化学反応を加速させるように酵素に手を加えられないかと考えるようになった。とりわけ関心をもったのは、酵素により、二酸化炭素などの厄介な副生成物を出さずに化学物質をつくれないだろうか、ということだ。

1年後チャクラバルティは、当時マサチューセッツ工科大学で化学工業を専攻する大学院生だったハントと手を組み、現在の製造プロセスで使われている、環境に害をなし、気候に悪影響のある材料のかわりに、コーンシロップなどの環境にやさしい材料を用いて工業化学製品を製造する方法の開発に乗り出した。ふたりは、ソリューゲン(Solugen)という会社を創業した。

同社CEOを務めるチャクラバルティは、「私たちが使っているシステムは、はるか昔から自然界に存在していたものだ」と述べる。「私たちに必要なのは、それがもっと効率的に生じるような環境をつくることだけだ」。チャクラバルティとハントは、従来の化学工学と、バイオエンジニアリングのノウハウに、人工知能を大幅に活用した新たなバイオ分子の設計を組みあわせて、製造プラットフォーム「バイオフォージ(Bioforge)」を考案した。高さ60フィート(約18メートル)のタンクに糖などの無害な材料を入れ、そうした材料を生化学反応にさらし、高密度のマイクロバルブ流によって空気を含ませる。

日本企業
タイミーが仕掛ける「一次産業革命」とは? 農家の「攻めの経営」を後押しするスキマバイトの可能性
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:日本株で首位狙う、米ジェフリーズと事

ワールド

米政府職員削減、連邦地裁が一時差し止め命令 労組の

ビジネス

日銀、利上げは「非常に緩やかに」実施を=IMF高官

ワールド

トランプ氏、ベネズエラでのCIA秘密作戦巡る報道を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中