手に負えないのはADHDだから? 家族に順位を付け、父親を「君づけ」で呼ぶ不登校小6男子の場合
(写真はイメージです) years44-Shutterstock
<忘れ物が多く、自分勝手で、周りに迷惑をかけても謝らない。次第にクラスで孤立し、副校長先生に叱責されたのを機に「つまらないから」と不登校に。家では父親を「君づけ」──手に負えないのはADHDだから?>
昨今、発達障害や精神疾患が広く取り上げられるようになった。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、うつ病、摂食障害──ネットで病名を検索すれば膨大な情報がヒットし、書店には専門のコーナーが設けられている。
知識を得て、「うちの子もそうに違いない」と思い込み、子育てに悩む親が子どもを伴って病院に足を運ぶことも珍しくなくなった。なかには、期待した診断を得られずに医療機関を転々とするケースもある。
ただ、病名を知っても事態が好転するとは限らない。精神科医の関谷秀子氏は「病名をつけて安心してしまってはいけない」と警鐘を鳴らす。
「精神疾患の情報は世間に溢れていますが、難しい時期とされる思春期にあっても、心の不調の背景には、子どもの身近な存在である親との関係や両親の夫婦関係の問題が隠れていることが多いのです」
『不登校、うつ状態、発達障害 思春期に心が折れた時 親がすべきこと』(中公新書ラクレ)には、関谷氏が実際に診察の場で出会った14人の思春期の子どもと、その家族のエピソードが綴られている。
ここでは、第10章「落ち着きがない。忘れ物が多い」(父親を「君づけ」で呼ぶ小6男子)を抜粋して紹介する。
注意欠如・多動性障害(ADHD)とは不注意、多動性、衝動性の3つを主症状とします。行動の制御に関連する神経生物学的な障害ともいわれていますが、まだ原因ははっきりしていません。
不注意とは「勉強に集中できない」「忘れ物が多く、頻繁に物をなくす」「宿題の提出を忘れる」「提出期限に間に合わない」などです。多動性は「落ち着きがない」「じっと座っていられない」、衝動性とは「自分の順番が待てない」「黙っていることができずしゃべり出す」「ほかの人の邪魔をする」などの行動を指します。ADHDと診断するには、これらの症状が家庭や学校など2つ以上の状況で存在することが必要です。
また、多動性や衝動性の症状は、2~3歳から始まって、幼稚園、小学校低学年頃に顕著となり、思春期、青年期には改善することが多くあります。一方で、不注意の症状は成人になっても残ることがあります。
母親のウソで「もう二度と病院には行かない」
J君は小学6年生です。5年生の頃から、授業中に友達にちょっかいを出して邪魔をしたり、友達の図工の作品を落として壊したり、宿題を忘れたりすることが多くなっていきました。校内ランニングや合唱練習など、自分がやりたくないことがある日は、わざと遅刻したり、サボッたりもするようになりました。
先生に注意されると、口答えをしたり、茶化(ちゃか)して逃げたりしていました。
自分勝手な行動、それに周囲に迷惑をかけても謝らずに威張っていることなどから、クラスの中でも次第に孤立していきました。