最新記事
健康

医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

2024年4月23日(火)12時04分
川口 美喜子(医学博士 大妻女子大学家政学部教授 管理栄養士) *PRESIDENT Onlineからの転載

【「タンパク質のとりすぎ」&「糖質の控えすぎ」が実に多い】

出前を頼むとしても、判断力と行動力、経済力、人と関わる意欲、コミュニケーション能力など、実にたくさんのパワーが必要です。

80代、90代の方から「孫が遊びに来るから、上等なステーキを食べに連れていく」「土用だからいつもの店からうな重をとる」などと聞くと、私はうれしく、うきうき、食欲がわいてきてしまう。

ずっとそのように、しっかり食べてこられたのがわかって、尊敬の気持ちでいっぱいになります。

健啖家は、一朝一夕にして成らず。すこやかな食習慣の賜物なのです。

ところが最近、健康を守ろうと思ってしている食生活が「偏食」に傾き、栄養が偏ってしまう状態をまねいている中高年が増えています。

とりわけ目立つのは「タンパク質のとりすぎ」と「糖質の控えすぎ」の重なり。

この困った現象は、次のような情報がマスコミなどからたくさん発信されることで、みなさんの記憶に刻まれていることが原因のようです。

・中高年になっても筋肉を維持するために「タンパク質」をとらなければいけない。
・糖質をとりすぎている人が多く、肥満の原因になっている。
・糖質のとりすぎで起こる「糖化」「炎症」は多くの病気の原因になっているので、糖質を控えたほうがいい。

newsweekjp_20240423025341.jpg

piotr_malczyk-istock


【太りたくないからと「納豆、小魚、刺身」生活を続けていたら...】

確かに、それぞれの理屈は間違いではありません。こうした情報が盛んに報道される背景にも、理解できる面はあります。

しかし、これらの理屈だけに着目し、タンパク質ばかり食べすぎ、糖質を控えすぎてしまう人が増え、偏食になって、体調に影響が出ています。

そのような食べ方では結果として、期待した「筋肉アップ」や「健康」にはつながらないことがあるとは知られないまま、「タンパク質増」「糖質オフ」だけが知れ渡っているのです。

先日、初老の女性が話しかけてくれました。

「朝や昼にはたまごを食べて、納豆や小魚を食べて、もうそれでお腹いっぱい。夜は刺身と豆腐を食べたら、主食のごはんは食べられない。でも、年をとったらタンパク質が大事で、ごはんは食べなくてもいいんですよね。筋肉を減らさないように、がんばっています」と。

そこで私は念のため、「あなたは、その食事がおいしいですか?」とうかがってみました。すると、「本当はごはんと一緒にお魚を食べるほうがおいしい。でも我慢しています。タンパク質を食べたら、食べられないから」というお返事でした。

聞けばご主人にもタンパク質優先で食事を出しているそうで、長年、「低脂肪の食事」も心がけてきたそう。おかげで夫婦そろって痩せ型で、メタボとは無縁でした。

しかし、さらに体重が落ちてきたので、ちょっと心配になってきたとのことでした。

【炭水化物を抜くと、タンパク質も正しく吸収されなくなる】

これは一大事! なぜならその体重低下は、彼女やご主人が危惧する筋肉の減少や、フレイル(加齢による虚弱)の始まりのサインかもしれないからです。

食生活を見直してもらうために、私は「お魚(タンパク質=タンパク源)」と「ごはん(炭水化物〈糖質〉=エネルギー源)」の栄養について説明をしました。タンパク質と炭水化物は、どちらも脂質・ビタミン・ミネラルとともに体にとって必要な5大栄養素に含まれます。

彼女に「真っ先に伝えなければ!」と思ったことは、ごはんを食べないで、エネルギー源が不足した状態が続くと、せっかく食べたタンパク質が、本来のタンパク質のはたらきをしない、言わば「おばけタンパク」になってしまうこと。

体はなにより「エネルギー源の確保」を優先しますから、糖質のエネルギーが足りないと、まず脂質がエネルギー源として利用され、さらに足りなければ、タンパク質がエネルギー源として利用されるしくみがあるのです。

彼女ら夫婦の食生活の傾向と体型、体重変動、生活習慣などを聞いた結果、私は「タンパク質がエネルギーとして利用されてしまっている可能性が高い」と感じたのでした。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中