最新記事
ライフスタイル

あなたの家が「底冷えする」のは窓のせい 冬寒い先進国でアルミサッシを使うのは日本だけという事実

2024年2月6日(火)19時26分
高橋真樹(ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師) *PRESIDENT Onlineからの転載
窓辺にたたずむ女性

※写真はイメージです Try_my_best - shutterstock


日本の住宅は先進各国と比べて断熱性能が極めて低い。ノンフィクションライターの高橋真樹さんは「たとえば冬が寒い先進国でアルミサッシが主流なのは日本だけ。日本の建築基準は断熱性能が低く、国際基準を大きく下回っている。こうした寒い家は、光熱費を高め、健康被害ももたらしている」という――。

※本稿は、高橋真樹『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

住宅の断熱性能が悪いとなにが起きるのか

日本の住宅の断熱性能は、何が問題なのでしょうか。それによって、どのような損失が生まれているのでしょうか。本稿では、主に健康と経済を中心に考えます。まず、バケツに上から水が注がれている図をイメージしてください。バケツには穴がたくさん空いていて、下から水が漏れ出しています。バケツを水でいっぱいにするためには、A「もっと水を注ぐ」、B「穴をふさぐ」のどちらを選ぶのが良いでしょうか?

正解はもちろん、B「穴をふさぐ」です。子どもにもわかる問題ですが、残念ながら日本社会は、この問いに対してずっとA「もっと水を注ぐ」という解答を選び続けてきました。

このクイズは、住宅とエネルギーとの関係を示しています。日本の一般的な住宅は、穴だらけのバケツのようにダダ漏れの状態です。どんなにエネルギー(=水)を注ぎ込んでも、穴から漏れて快適にはなりません。合理的に考えれば、住宅の性能を上げる(=穴をふさぐ)必要があるのですが、エネルギーのほうにばかり関心が向けられてきました。

日本のエアコンのエネルギー効率(注ぐ水をつくるための技術)は、世界でもトップレベルです。しかし、建物の断熱性能(バケツの穴)はそのままなので、光熱費ばかりかかって快適にはなりません。日本の住宅では、必要な部屋だけを冷暖房することが一般的です。空調している部屋としていない部屋との温度差が大きく、健康被害が起きています。

さらに経済面でも、バケツの穴から大金が捨てられています。海外から数十兆円かけて輸入した化石燃料を燃やし、そこでつくられた貴重なエネルギーが、住宅の隙間から抜け出しているのです。住宅の断熱性能が悪いことで、私たちは健康、経済、エネルギーなどの各分野で、大きな損失を被ってきたことになります。

日本は「がまんの省エネ」の国

一般の住まい手も、バケツの穴(=低い断熱性能)をふさぐより、注ぐ水(=エネルギー)を減らすことを意識しがちです。省エネや節電のための行動について、数々のアンケートが行われています。

ほとんどの調査では、「こまめに家電のスイッチを切る」「薄着、厚着でしのぐ」「冷暖房の設定温度を控えめにする」といった回答が上位に挙がります。しかし、このような努力を伴う「がまんの省エネ」を続けるのは、簡単ではありません。しかも、努力の割に効果は限定的です。

一般の人たちの意識が「がまんの省エネ」に向かうのは、仕方のない面もあります。長年にわたって、行政が推奨してきたからです。全国の自治体では、省エネや脱炭素の取り組みとして、夏はノーネクタイやエアコン28℃設定が、冬はタートルネックやエアコン20℃設定が推奨されています。

環境省が冬の省エネ対策として推奨する「ウォームシェア」では、イメージキャラクターが「(家の暖房を止めて)旅行や温泉、銭湯に行くのだって、ウォームシェア」と呼びかけます。また、「みんなで鍋を食べて暖まろう」と、全国の鍋レシピが紹介されています。鍋料理で暖まるのは、一時的なものです。旅行に行けば、家庭で省エネした分など比較にならないほどお金とエネルギーがかかります。いずれも、毎日実践する省エネの方法としては、適切とは言えません。

こうした例は、日本が「がまんの省エネ」の国であることを示しています。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中、通商分野で歩み寄り 301条調査と港湾使用料

ビジネス

テスラの10月中国販売台数、3年ぶり低水準 シャオ

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中