「箱根駅伝マネーゲーム」のエグい格差 学生ランナーが月30万円不労所得を得ているという現実
選手のキャリアプランは非常に危うい
箱根駅伝が華やかすぎるため、実業団に進んだ選手たちは目標を見失ってしまう場合が少なくない。箱根駅伝が30%近い視聴率を叩き出す一方で、前日に行われるニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)は視聴率10%前後。オリンピックのマラソン代表選手にでもならない限り、学生時代ほど世間はチヤホヤしてくれない。せっかく実業団に進んでも、「箱根駅伝以上の目標を見つけられない」と早々にシューズを脱いでしまうランナーもいるほどだ。
また大学で"特別待遇"を受けてきた歪みが、その後のキャリアにも影響している。箱根駅伝で活躍するランナーは、高校・大学にスポーツ推薦で入り、大学卒業後は実業団に進むというのがオーソドックスなルートだ。一般的な学生が経験する「一般入試」「アルバイト」「就職活動」をまったく経験していない。
しかし、競技を引退した後に特別待遇は終わってしまう。企業で一般業務に専念するようになると、苦悩が多いようだ。ある大学の監督は、「競技を頑張ってきたとしても、人生のハードルを越えてきていないんです。1000円稼ぐのがどれだけ大変なのかわからない。高校、大学、企業に苦労なく入ってきているので、社会人になって挫折したときに、次の職がないんですよ」と話す。人生のキャリアプランで悩んでいる選手は少なくないようだ。
「選手は先のことをさほど考えていないですし、勧誘する実業団チームも競技引退後の具体的な説明をすることはほとんどありません。私は選手たちに『必ず引退後のセカンドキャリアを聞きなさい』と言っているんです。そっちの方が大事ですから。そうでないと使い捨てになりますよ。これまで多くの選手が実業団に進みましたが、競技を退いた後、その会社を去った者は少なくありません」(前出監督)
箱根駅伝でチヤホヤされた選手たちは、実業団に進むときも、破格の条件を提示される場合がある。「自分たちは特別なんだ」とカン違いしたまま、社会人になってしまう。
実業団チームに入社しても、一般業務は半日ほどで、あとは練習に集中できる企業が一般的だ。選手は合宿で職場を離れることも多いため、責任ある業務を任される機会は非常に少ない。競技を長年頑張れば、頑張るほど、同世代の社員との経験値は開いていくことになる。企業戦士としてのキャリアアップは非常に難しいといえるだろう。
最近は「契約選手」も増えてきた。一般業務は免除され、報酬は一般社員より高いが、契約が終了すれば、新たな所属先を探さないといけない。世界大会で大活躍するレベルなら、競技引退後、「指導者」のオファーがあるだろう。しかし、さほど目立った活躍ができなければ、新たな職を探す必要に迫られる。箱根駅伝を目指して、努力した選手たちのキャリアプランはかなり危うい。
酒井政人
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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