最新記事
スポーツ

「箱根駅伝マネーゲーム」のエグい格差 学生ランナーが月30万円不労所得を得ているという現実

2024年1月2日(火)07時50分
酒井政人(スポーツライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

reuter_20240101_231642.jpg

選手のキャリアプランは非常に危うい

箱根駅伝が華やかすぎるため、実業団に進んだ選手たちは目標を見失ってしまう場合が少なくない。箱根駅伝が30%近い視聴率を叩き出す一方で、前日に行われるニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)は視聴率10%前後。オリンピックのマラソン代表選手にでもならない限り、学生時代ほど世間はチヤホヤしてくれない。せっかく実業団に進んでも、「箱根駅伝以上の目標を見つけられない」と早々にシューズを脱いでしまうランナーもいるほどだ。

また大学で"特別待遇"を受けてきた歪みが、その後のキャリアにも影響している。箱根駅伝で活躍するランナーは、高校・大学にスポーツ推薦で入り、大学卒業後は実業団に進むというのがオーソドックスなルートだ。一般的な学生が経験する「一般入試」「アルバイト」「就職活動」をまったく経験していない。

しかし、競技を引退した後に特別待遇は終わってしまう。企業で一般業務に専念するようになると、苦悩が多いようだ。ある大学の監督は、「競技を頑張ってきたとしても、人生のハードルを越えてきていないんです。1000円稼ぐのがどれだけ大変なのかわからない。高校、大学、企業に苦労なく入ってきているので、社会人になって挫折したときに、次の職がないんですよ」と話す。人生のキャリアプランで悩んでいる選手は少なくないようだ。

箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地「選手は先のことをさほど考えていないですし、勧誘する実業団チームも競技引退後の具体的な説明をすることはほとんどありません。私は選手たちに『必ず引退後のセカンドキャリアを聞きなさい』と言っているんです。そっちの方が大事ですから。そうでないと使い捨てになりますよ。これまで多くの選手が実業団に進みましたが、競技を退いた後、その会社を去った者は少なくありません」(前出監督)

箱根駅伝でチヤホヤされた選手たちは、実業団に進むときも、破格の条件を提示される場合がある。「自分たちは特別なんだ」とカン違いしたまま、社会人になってしまう。

実業団チームに入社しても、一般業務は半日ほどで、あとは練習に集中できる企業が一般的だ。選手は合宿で職場を離れることも多いため、責任ある業務を任される機会は非常に少ない。競技を長年頑張れば、頑張るほど、同世代の社員との経験値は開いていくことになる。企業戦士としてのキャリアアップは非常に難しいといえるだろう。

最近は「契約選手」も増えてきた。一般業務は免除され、報酬は一般社員より高いが、契約が終了すれば、新たな所属先を探さないといけない。世界大会で大活躍するレベルなら、競技引退後、「指導者」のオファーがあるだろう。しかし、さほど目立った活躍ができなければ、新たな職を探す必要に迫られる。箱根駅伝を目指して、努力した選手たちのキャリアプランはかなり危うい。

酒井政人

スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利上げ含め金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべ

ワールド

香港火災、警察が建物の捜索進める 死者146人・約

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持の右派アスフラ

ビジネス

債券市場の機能度DI、11月はマイナス24 2四半
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中