細胞にストレスとなる「毒」が健康に役立つ? 老化原因物質を無毒化し優れた抗酸化作用をもつ植物成分とは
植物の「有毒物質」が薬になる
Sola dosis facit venenum――あらゆるものは毒であり、毒なしにはありえない。害になるかどうかは服用する量によって決まる――パラケルスス
えっ、ストレスフルな食品? 確かに、聞いたかぎりでは、あまりいいものには思えない。だが、あなたが毎日食べている身体にいい食品のほとんどは、「細胞の」レベルではストレスフルだ。
あらゆる生物が考えるのと同じように、植物だって食べられたくはない。ところが植物は、ちょっと不利な立場にある。彼らは捕食者から走って逃げることも、噛みついたり武器を振りかざしたりして闘うこともできないからだ。代わりに植物は、昆虫や菌類、細菌にとって有毒な物質を合成し、化学的な力で身を守っている。つまり自然界の植物の多くは、化学物質で身を守っているのだ。
たとえば、オリーブオイルに含まれる「オレオカンタール」、赤ワインの原料となるブドウに含まれる「レスベラトロール」、ウコンに含まれる「クルクミン」などだ。実をいうと、私たちは野菜をたくさん食べることで、このような化学物質をふんだんに身体に取り入れている。そして、これらの物質が身体に与える影響は少しずつわかってきてはいるものの、そのほとんどは、まだ名前さえついていないのだ!
抗酸化物質の産生を促す「ポリフェノール」
こうした化学物質の1つに、ポリフェノールがある。
これは、身体にいいことで有名な植物成分の総称だ。近年の研究によると、ポリフェノールには幅広い抗酸化作用があり、加齢に関わる炎症、ガンや心血管疾患、認知症などの慢性疾患から守ってくれる働きが注目されている。ポリフェノールが人体におよぼすはっきりしたメカニズムはわかっていないものの、ホルミシスがそれを説明するものとして浮上している。
代表的ないくつかのポリフェノールと、それが豊富な食品を挙げよう(図表1)。
こうした成分が身体にいいのは、細胞レベルでわずかなストレスが生じるためでもある。ポリフェノールを摂ると、抗酸化物質の産生を促す遺伝子の活動スイッチが入り、細胞が防御態勢をとる。ポリフェノールに誘発された抗酸化物質は、フリーラジカル(※)に対しても、有名なビタミンEやCのように優れた除去作用を発揮する。
こうした抗酸化物質は「1対1」で作用する。たとえば、ビタミンCの1つの分子が、1つのフリーラジカルを無毒化する。ところがポリフェノールに誘発されてつくられるグルタチオンのような抗酸化物質は、数えきれないほどのフリーラジカルを無毒化できるという。
※フリーラジカル(不対電子)......電子は一般的に対の状態で存在しているが、対をなさずに単独で存在する分子、または原子。フリーラジカルは、周りの分子から電子を1つ奪って安定しようとするため、細胞を変性させる。老化現象を引き起こす原因と言われている。