犬は人の表情を読んでいる──あなたが愛犬に愛されているかは「目」でわかる

FOR THE LOVE OF DOG

2023年5月25日(木)14時55分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230530p18NW_SGK_11.jpg

脳の画像診断装置のおかげで、犬の脳の働きが分かってきた。犬の脳は、飼い主の優しい言葉に、おいしい餌をもらったときと同じ反応を示す。それは愛だ FLASHPOP/GETTY IMAGES

特筆すべきは、人間の脳には存在しない神経回路を犬の脳で発見できたことだ。これは視覚野と嗅覚葉を直接つなぐ回路で、臭いの処理に関与している。また鼻と脊髄の間に、他のどの種にもないダイレクトな回路があることも分かった。

また犬の鼻に入った臭いは、脳の視覚野で処理されることもあるため、盲目の犬でも「見る」能力を維持していることがあるようだ。つまり、犬の一瞬一瞬の体験には、視覚と嗅覚が密接に絡み合っている。

飼い主との特別に親密な関係はともかく、種としての犬に超能力があるとすれば、それは嗅覚だろう。犬の鼻は人間の鼻の100万倍も敏感だ。人間の鼻腔の奥には500万個の嗅覚受容体(臭い分子を感知する小さなタンパク質)がある。

一方、犬は鼻の穴から喉の奥まで、最大で人間の60倍以上の3億個の嗅覚受容体を備えている。人間の脳で嗅覚に対応する部分の割合は5%だが、犬では35%という試算もある。

そのため、犬は何世紀にもわたり犯罪者や爆発物や薬物を嗅ぎ分け、雪崩の犠牲者を見つけ、建物の下に閉じ込められた人を発見・救助するために使われてきた。癌や新型コロナウイルス感染の有無を嗅ぎ分ける訓練も行われている。

ペンシルベニア大学ワーキングドッグ・センターで犬の嗅覚を研究するクララ・ウィルソンによれば、犬は人間のストレスを嗅ぎ分けることもできる。彼女は人の首の後ろを拭き、さらに息を吹きかけた布を犬に嗅がせる実験をした。すると、たいていの場合、犬はその人が難しい数学の問題を解くのに苦戦したばかりかどうかを嗅ぎ分けることができた。

ウィルソンによると、犬は嗅覚で時間も把握している。つまり、12時間前の臭いと4時間前の臭いの違いを識別できる。散歩の時間や飼い主の帰宅時間を知ることができるのはそのせいだ。

また、散歩の途中で犬は他の犬の尿を嗅ぐことが多いが、その臭いでその犬が発情期なのか、ストレスがたまっているかハッピーか、病気なのか健康なのかといったことも判断できるという。

画像診断が証明した本物の愛

もちろん、脳は個体差が大きい。ハーバード大学で進化神経科学研究所と「犬の脳プロジェクト」の責任者を務めるエリン・ヘクトは、人間による品種改良が犬の脳の発達に与えた影響を研究している。

19年の論文で、ヘクトは33種の純血犬62頭を調べ、狩猟や牧畜、警備など、飼育の目的によって脳のさまざまな領域と神経回路の大きさにかなりの違いが生じると論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利上げの是非、12月の決定会合で「適切に判断」=植

ワールド

南アはG20創設メンバーとラマポーザ大統領、トラン

ワールド

米州兵銃撃容疑者、入国後に過激化 国土安全保障長官

ビジネス

エアバス機、1日にほぼ通常運航へ 不具合ソフトの更
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中