犬は人の表情を読んでいる──あなたが愛犬に愛されているかは「目」でわかる
FOR THE LOVE OF DOG
チェイサーに探求心をかき立てられた一部の研究者は、さらなる「天才犬」を研究対象として集めようとしている。ミクローシも21年に賢い犬を探すためのウェブサイトを立ち上げ、「天才犬」コンテストを開始した(現在も候補を募集中)。
これまでに彼は世界中で40匹の天才犬を特定した。平均的な犬が理解できる名前は1つか2つだが、天才犬は4~6つの名前を理解でき、訓練次第では80から100の名前を覚えることができるという。
犬は1つの物の名前を覚えるのに10~15分かかり、その記憶は約1カ月間保持される。ただし犬の学びの「認知トリック」にはまだ解明されていない部分が多く、結論を出すにはもっとたくさんの天才犬を集める必要がありそうだ。
しかし、犬の素晴らしい能力を自慢する愛犬家の主張に冷ややかな目を向ける専門家もいる。
捜索救助犬や爆弾探知犬、警察犬などの「仕事犬」の養成と研究を専門とするペンシルベニア大学獣医学部ワーキングドッグ・センターのアムリタ・マリカルジュンは、愛犬家は犬の言語理解力を過大評価しがちだと指摘する。
優れた嗅覚という超能力
ミクローシも、100以上の単語を覚えることができる犬は極めて少数であることを認めている。たいていの犬は単語ではなく、人の口調や文脈から言葉の意味を推測している。そうした情報がなければ、普通の犬は名詞と動詞を区別できない。
「外に出たいときは特定のボタンを踏むよう、犬に教えることはできる」とマリカルジュンは言う。「多くの人が現にやっていることだが、外に出たければベルを鳴らすようにしつけることもできる。
でも、それが可能なのは飼い主が愛犬をよく理解しているからだ。特定の行動と特定のオブジェを結び付け、あるいは分離できる犬は、まだチェイサー以外に見つかっていない」
脳の画像診断技術の進歩に伴って、犬の脳で起きている現象に関する興味深い手がかりが得られてきた。どうやら犬は、人間とは全く異なる方法で世界を見ているらしい。
コーネル大学獣医学部のフィリッパ・ジョンソン准教授(画像診断学)は、このほど初めて、犬の脳のどこで何が起きているかを示すマップを作製した。その結果、エピソードの長期的な記憶や感情に関わる脳の側頭部は、犬も人間とほぼ似ていることが分かったという。
そうであれば、犬が人間との絆を深め、感情を理解しやすい理由は説明できる。しかし抽象的な推論や問題解決、想像力を司る前頭葉は、人間よりはるかに小さい。そこでジョンソンは、犬は人間よりも「現在のことに集中」しており、食事や抱擁の後に何が起きるかは気にしていないと考えている。
だが犬の脳には、人間よりもはるかに大きい領域があった。例えば視覚情報の処理や微細な運動、嗅覚に関わる領域などだ。またジョンソンは、犬の脳の「白質」結合のマッピングにも取り組んでおり、どの領域が最もよく連動して機能しているかを明らかにしている。