犬は人の表情を読んでいる──あなたが愛犬に愛されているかは「目」でわかる

FOR THE LOVE OF DOG

2023年5月25日(木)14時55分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230530p18NW_SGK_10.jpg

SENSORSPOT/GETTY IMAGES

チェイサーに探求心をかき立てられた一部の研究者は、さらなる「天才犬」を研究対象として集めようとしている。ミクローシも21年に賢い犬を探すためのウェブサイトを立ち上げ、「天才犬」コンテストを開始した(現在も候補を募集中)。

これまでに彼は世界中で40匹の天才犬を特定した。平均的な犬が理解できる名前は1つか2つだが、天才犬は4~6つの名前を理解でき、訓練次第では80から100の名前を覚えることができるという。

犬は1つの物の名前を覚えるのに10~15分かかり、その記憶は約1カ月間保持される。ただし犬の学びの「認知トリック」にはまだ解明されていない部分が多く、結論を出すにはもっとたくさんの天才犬を集める必要がありそうだ。

しかし、犬の素晴らしい能力を自慢する愛犬家の主張に冷ややかな目を向ける専門家もいる。

捜索救助犬や爆弾探知犬、警察犬などの「仕事犬」の養成と研究を専門とするペンシルベニア大学獣医学部ワーキングドッグ・センターのアムリタ・マリカルジュンは、愛犬家は犬の言語理解力を過大評価しがちだと指摘する。

優れた嗅覚という超能力

ミクローシも、100以上の単語を覚えることができる犬は極めて少数であることを認めている。たいていの犬は単語ではなく、人の口調や文脈から言葉の意味を推測している。そうした情報がなければ、普通の犬は名詞と動詞を区別できない。

「外に出たいときは特定のボタンを踏むよう、犬に教えることはできる」とマリカルジュンは言う。「多くの人が現にやっていることだが、外に出たければベルを鳴らすようにしつけることもできる。

でも、それが可能なのは飼い主が愛犬をよく理解しているからだ。特定の行動と特定のオブジェを結び付け、あるいは分離できる犬は、まだチェイサー以外に見つかっていない」

脳の画像診断技術の進歩に伴って、犬の脳で起きている現象に関する興味深い手がかりが得られてきた。どうやら犬は、人間とは全く異なる方法で世界を見ているらしい。

コーネル大学獣医学部のフィリッパ・ジョンソン准教授(画像診断学)は、このほど初めて、犬の脳のどこで何が起きているかを示すマップを作製した。その結果、エピソードの長期的な記憶や感情に関わる脳の側頭部は、犬も人間とほぼ似ていることが分かったという。

そうであれば、犬が人間との絆を深め、感情を理解しやすい理由は説明できる。しかし抽象的な推論や問題解決、想像力を司る前頭葉は、人間よりはるかに小さい。そこでジョンソンは、犬は人間よりも「現在のことに集中」しており、食事や抱擁の後に何が起きるかは気にしていないと考えている。

だが犬の脳には、人間よりもはるかに大きい領域があった。例えば視覚情報の処理や微細な運動、嗅覚に関わる領域などだ。またジョンソンは、犬の脳の「白質」結合のマッピングにも取り組んでおり、どの領域が最もよく連動して機能しているかを明らかにしている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ関税、牛肉・コーヒーなどの食品除外 インフ

ワールド

ネタニヤフ氏、パレスチナ国家への反対強調 極右から

ワールド

ロシアとビジネスを行う国に制裁、共和党が法案準備=

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、5万円割り込み足元400
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中