最新記事
日本社会

今や満員電車でリュックを前に抱えるのは「マナー違反」 鉄道各社「荷物は手に持って」、その狙いは?

2023年4月10日(月)17時00分
枝久保 達也(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家) *PRESIDENT Onlineからの転載
電車の乗ろうとする人々

*写真はイメージです。 Steven Collins -shutterstock

<「前に抱えて」がマナーだったのが、いつの間にか変わっていた──>

関西の鉄道事業者19社局が展開中の共同マナーキャンペーンが興味深いと担当編集者が教えてくれた。「手荷物の持ち方・置き方は、まわりの方にご配慮ください」とした上で、具体的には「大きな荷物は網棚に」「リュックは手に持って」「手荷物はヒザの上に」と呼び掛けているのだという。

当たり前のことではないか、何が興味深いのかと思われるかもしれないが、これまでの手荷物に関するマナーキャンペーンは「リュックサックは前に抱える」が常套句だった。それが今回、その文言を一切使っていないのである。

同じく関西各社が2018年3月に行った共同マナーキャンペーンは、「そのリュックサック迷惑な技かけてない?」として、「車内でのリュックサックは、前に抱えるか網棚の上に置く」よう呼びかけていた。関東においても駅員や車掌の肉声放送、一部事業者では自動放送で同様の表現を用いている。

なぜ5年で文言が変わったのか。キャンペーンを取りまとめる関西鉄道協会に話を聞くと、「過去は前に抱えてという表現も使っていたが、身体的な理由など、何かしらそれができない人がおり、前に抱えられない人はどうしたらいいかと指摘されることがあった」という。

東京メトロでは「迷惑な人」の描写に変化が

そこで問題の本質は「背負ったままでは迷惑」と整理し、「前に抱えることばかり注目されるが、まずは背負っている荷物を肩からいったん外して手に持つ、網棚に乗せる」ことを訴えることにしたという。なるほど「関西人の合理性」が背景にあるようだ。

関東のマナーキャンペーンはどうなっているのか。各社のウェブサイトを眺めていたら、鉄道事業者のマナーキャンペーンでは最も有名かつ長い歴史を持ち、かつ筆者の古巣でもある東京メトロのマナーポスターが目に留まった。

東京メトロは2015年以降、毎年1度は車内の手荷物マナーを題材にしたポスターを制作している。2015年8月のポスターを見ると、どのように持つべきか明言されていないものの、リュックを前に抱える人と網棚の上の荷物がイラストで描かれている。

続く2016年、2017年のポスターは荷物を背負ったままの「迷惑な人」が描かれているが、周囲への気づかいを促すのみで具体策に触れていない。2018年5月のポスターは3年ぶりにリュックを前に抱える人のイラストが描かれている。

ところがこれ以降、描写は変化する。2019年5月、2020年7月のポスターは手荷物を網棚の上に乗せる人と手に持つ人を描き、2021年5月と2022年5月は同様のイラストに大きな荷物は足元に持つか荷棚に上げるとの文言を添えている。

2015年8月と5月のマナーポスター
(左)2015年8月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより)/(右)2018年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより


newsweek20230410_b.jpg
(左)2015年8月のマナーポスター(画像=(左)2021年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより)/(右)2022年5月のマナーポスター(画像=メトロ文化財団ホームページより

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中