牛乳=骨太は間違いだった! 「牛乳をたくさん飲む国ほど骨折が多い」衝撃の研究結果
骨折と死亡リスクの関係性を示す調査結果
女性集団を20年間にわたり追跡調査したところ、死者1万5541人、骨折者1万7252人、そのうち股関節(足の付け根の部分にある関節)の骨折者は4259人だった。牛乳を多く飲んでも骨折リスクは低下しなかった。その上、牛乳を1日3杯以上飲む女性(平均680ml)は、1日1杯以下の女性(平均60ml)にくらべ、死亡率が2倍になった。そして男性集団を11年間にわたって追跡調査したところ、死者1万112人、骨折者5066人、そのうち股関節の骨折者1116人だった。
女性集団ほど顕著ではないが、男性集団もまた牛乳の消費量が増えるにつれ、死亡率が高くなった。さらに分析を進めると、牛乳の摂取量が増えるにつれ、酸化ストレスと炎症のバイオマーカーであるCRP値が上昇していた。CRPはC反応性タンパクといい、血液中のCRP値が上昇すると、体に炎症が起こっていることを意味する。これは、牛乳を大量に摂取すると、酸化ストレスが増し、骨折と死亡リスクが高まるという彼らの仮説を支持する根拠となっている。
因果関係を示す結果ではないが、問題視されている
対照的に、ヨーグルトやチーズといった発酵した乳製品は、酸化ストレスを引き起こさなかったばかりか、とりわけ女性において寿命が延びることに加え、骨折リスクも低下した。要するに、牛乳は寿命を短くするが、ヨーグルトとチーズは寿命を延ばすのである。
牛乳と、ヨーグルトとチーズでは何が違うのか。ヨーグルトとチーズは、発酵によって乳糖が分解したため、骨折リスクと寿命における好結果に結びついた、と推測できる。この論文の結論は、こうだ。牛乳をより大量に摂取することによって男女とも、骨折リスクは低下しないだけでなく、死亡率は上昇していた。
牛乳に含まれるラクトースとガラクトースが死亡率の上昇に関係している、と推測できる。これまで骨折を防ぐために牛乳をたくさん飲むように推奨されてきたが、この研究結果によってその有効性に大いなる疑問が投げかけられた。
ただし、この研究結果の解釈には注意が必要である。牛乳が死亡率を上昇させるという結論は、スウェーデンだけでなく、牛乳摂取量の異なる他国でも追試し、確認されなければならない。それから、この研究は牛乳、骨折、死亡率に相関関係があることを示すものであるが、牛乳が骨折と死亡率を高めるという因果関係を示すものではない。
ニューヨーク市立大学のメリー・スクーリング教授は、こういう。「牛乳・乳製品の消費量は、経済の発展と動物性食品の消費の増加にともない、地球的規模で増加する傾向にあることから、牛乳と死亡率の関係を明らかにしなければならない。しかも、直ちに」。今、欧米を中心に、牛乳・乳製品の摂取量についてのガイドラインを見直す議論が巻き起こっている。
生田 哲(いくた・さとし)
科学ジャーナリスト
1955年、北海道に生まれる。薬学博士。がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員、1986年から91年までイリノイ工科大学助教授を務める。遺伝子の構造やドラッグデザインをテーマに研究生活を送る。現在は日本で、生化学、医学、薬学、教育を中心とする執筆活動や講演活動、脳と栄養に関する研究とコンサルティング活動を行う。著書に、『遺伝子のスイッチ』(東洋経済新報社)、『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』(育鵬社)、『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社)、『よみがえる脳』(SBクリエイティブ)、『子どもの脳は食べ物で変わる』(PHP研究所)、『「健康神話」を科学的に検証する』(草思社)など多数。