悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ

HOW TO BREAK THE HABIT LOOP

2023年3月23日(木)11時40分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230314p18_ASK_04SQ.jpg

ILLUSTARTION BY MALTE MUELLERーFSTOP/GETTY IMAGES

しかし、意識(意志)の力だけでは習慣は身に付かない。無意識で行動できるようにするには一定の報酬が必要になる。最初にポテトチップスの袋というキューがあり、次に袋を開けて食べるという行動が起き、味覚体験(うまい!)という報酬がもたらされる。ニュースフィードに表示された記事(キュー)を見たら、それをSNSに再投稿する(行動)、すると友人から賛同のコメントや「いいね」の反応(報酬)が来る。そんな具合だ。

一定のキューがあり、行動を起こして報酬をもらえると、脳の大脳基底核では神経伝達物質のドーパミンが放出される。このドーパミンは連鎖的に脳内の化学反応を引き起こし、それによって大脳基底核にニューロン間の新しい結合ができ、やがて習慣を自動化するために必要な脳の回路が作られる。

習慣が完全に形成されると、もう意識的な実行制御システムの出番はなくなる。そして私たちは別なこと(ポテトチップスを食べながら見ているテレビ番組の内容など)に意識を向けられるようになる。

この段階で、習慣に関わる神経構造は「感覚運動ループ」と呼ばれるものに移行すると、バークマンは考える。そこには大脳基底核の異なる部分と運動制御に関わる大脳皮質の領域が関わっている。特定のキュー(ポテトチップスの袋など)があると、それに対応するニューロンが活性化され、その刺激で一連の行動が引き起こされ、しかるべき報酬が得られるとループが完結する。

神経科学者は、こうした現象が起きる部位を正確に特定しようとしており、習慣が定着するにつれて大脳基底核の脳活動が変化する様子をより正確かつ精密に観察している。いつか、依存症や強迫性障害に関連する病的な習慣のループを断ち切る新薬が開発されるかもしれない。

混同されている習慣と依存

習慣を変えたいのなら、まずは自分の思い込みを見直すことだ、と南カリフォルニア大学のウッドは言う。彼女の研究チームは、人は自分の意志の力を過大評価する傾向があるだけでなく、習慣で動いているという考えに抵抗感を持つことが多いことに気付いた。

習慣的にコーヒーを飲む人たちの観察研究では、たいていの人がコーヒーを飲む理由として習慣と疲労を挙げていた。愚かな習慣ではなく、疲労回復という合理的な選択をしていると思いたいのだろう。しかし彼らの行動を観察してみると、疲労感よりも習慣がはるかに大きな役割を果たしていることが分かった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管

ワールド

アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せ

ワールド

チョルノービリ原発の外部シェルター、ドローン攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中