悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ
HOW TO BREAK THE HABIT LOOP
しかし、意識(意志)の力だけでは習慣は身に付かない。無意識で行動できるようにするには一定の報酬が必要になる。最初にポテトチップスの袋というキューがあり、次に袋を開けて食べるという行動が起き、味覚体験(うまい!)という報酬がもたらされる。ニュースフィードに表示された記事(キュー)を見たら、それをSNSに再投稿する(行動)、すると友人から賛同のコメントや「いいね」の反応(報酬)が来る。そんな具合だ。
一定のキューがあり、行動を起こして報酬をもらえると、脳の大脳基底核では神経伝達物質のドーパミンが放出される。このドーパミンは連鎖的に脳内の化学反応を引き起こし、それによって大脳基底核にニューロン間の新しい結合ができ、やがて習慣を自動化するために必要な脳の回路が作られる。
習慣が完全に形成されると、もう意識的な実行制御システムの出番はなくなる。そして私たちは別なこと(ポテトチップスを食べながら見ているテレビ番組の内容など)に意識を向けられるようになる。
この段階で、習慣に関わる神経構造は「感覚運動ループ」と呼ばれるものに移行すると、バークマンは考える。そこには大脳基底核の異なる部分と運動制御に関わる大脳皮質の領域が関わっている。特定のキュー(ポテトチップスの袋など)があると、それに対応するニューロンが活性化され、その刺激で一連の行動が引き起こされ、しかるべき報酬が得られるとループが完結する。
神経科学者は、こうした現象が起きる部位を正確に特定しようとしており、習慣が定着するにつれて大脳基底核の脳活動が変化する様子をより正確かつ精密に観察している。いつか、依存症や強迫性障害に関連する病的な習慣のループを断ち切る新薬が開発されるかもしれない。
混同されている習慣と依存
習慣を変えたいのなら、まずは自分の思い込みを見直すことだ、と南カリフォルニア大学のウッドは言う。彼女の研究チームは、人は自分の意志の力を過大評価する傾向があるだけでなく、習慣で動いているという考えに抵抗感を持つことが多いことに気付いた。
習慣的にコーヒーを飲む人たちの観察研究では、たいていの人がコーヒーを飲む理由として習慣と疲労を挙げていた。愚かな習慣ではなく、疲労回復という合理的な選択をしていると思いたいのだろう。しかし彼らの行動を観察してみると、疲労感よりも習慣がはるかに大きな役割を果たしていることが分かった。