最新記事

ジェンダー

若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か

PRETTY WOMAN?

2023年1月6日(金)13時32分
此花わか(セクシュアリティ・ジャーナリスト)

ERICAの話す「えへへへ、うふふふ」という言葉も、アニメや漫画では使われても、現実ではほとんど聞かれない。

アニメ文化のメインストリーム化だけでなく、経済の低迷も女性の声を高くする原因かもしれない。日本の女性は男性に比べ経済的に厳しい環境にある。

まず、男女間賃金格差が世界各国に比べ大きい。OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合、女性は77.5にとどまる。男女差は22.5ポイントで、韓国(31.5ポイント)、イスラエル(22.7ポイント)に次いで大きい。管理職に占める女性割合の水準も低く、内閣官房の調査(21年時点)によるとアメリカの41.4%に対し日本は13.2%しかない。

山﨑氏は日本人女性の声が高くなったのは2000年頃からと指摘するが、OECDの調査では、2000年代半ばから日本の相対的貧困率がOECD平均値を上回る状態が続いている。日本の場合、貧困率が上がってより経済的に厳しい状況に置かれやすいのは女性だ。

開発者個人の問題なのか

女性が男性ほど収入を得られない構造的差別が女性の無力感を強化し、「男性に守られなければ生きていけない存在」に見せるために、女性は意識的あるいは無意識的に声を高くしているのかもしれない。しかし、その高い声がAIに反映されると、今度はAIが現実の女性の声のテンプレートになってしまう。

温泉地に行くと「今日こそは夜這いがあるかもとドキドキする」などと描かれたご当地温泉むすめキャラクターのポスターが貼られ、テレビをつければ年長男性のアシスタントをする声の高い若い女子アナウンサー、野球場へ行くとミニスカートの若いビアガール......。記号化された「若い女性」の象徴が日本の津々浦々に存在している。

なぜERICAが若い「美人顔」の女性で、従順と捉えられる言葉をしゃべらせたのか。井上助教に取材を申し込んだが、「業務が立て込んでいるので取材を受けることができない」という返答だった。ただ、井上氏は22年11月の京都新聞の取材に対して、「自分の目標は人間のパートナーとして社会に受け入れられる会話ロボの開発。批判の中には重要な指摘も多く含まれると思っているし、AIを研究する者としてジェンダーをはじめとする倫理的問題にもしっかりと向き合っていきたい」と答えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インド通貨ルピーが史上最安値更新、1ドル90ルピー

ワールド

フィリピン中銀、成長鈍化で12月利下げ可能性高まる

ビジネス

物言う投資家ジャクソン氏、暗号資産トレジャリー企業

ワールド

ロシア経済、ルーブル高に適応必要 輸出企業に逆風=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中