若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か
PRETTY WOMAN?
ERICAの話す「えへへへ、うふふふ」という言葉も、アニメや漫画では使われても、現実ではほとんど聞かれない。
アニメ文化のメインストリーム化だけでなく、経済の低迷も女性の声を高くする原因かもしれない。日本の女性は男性に比べ経済的に厳しい環境にある。
まず、男女間賃金格差が世界各国に比べ大きい。OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合、女性は77.5にとどまる。男女差は22.5ポイントで、韓国(31.5ポイント)、イスラエル(22.7ポイント)に次いで大きい。管理職に占める女性割合の水準も低く、内閣官房の調査(21年時点)によるとアメリカの41.4%に対し日本は13.2%しかない。
山﨑氏は日本人女性の声が高くなったのは2000年頃からと指摘するが、OECDの調査では、2000年代半ばから日本の相対的貧困率がOECD平均値を上回る状態が続いている。日本の場合、貧困率が上がってより経済的に厳しい状況に置かれやすいのは女性だ。
開発者個人の問題なのか
女性が男性ほど収入を得られない構造的差別が女性の無力感を強化し、「男性に守られなければ生きていけない存在」に見せるために、女性は意識的あるいは無意識的に声を高くしているのかもしれない。しかし、その高い声がAIに反映されると、今度はAIが現実の女性の声のテンプレートになってしまう。
温泉地に行くと「今日こそは夜這いがあるかもとドキドキする」などと描かれたご当地温泉むすめキャラクターのポスターが貼られ、テレビをつければ年長男性のアシスタントをする声の高い若い女子アナウンサー、野球場へ行くとミニスカートの若いビアガール......。記号化された「若い女性」の象徴が日本の津々浦々に存在している。
なぜERICAが若い「美人顔」の女性で、従順と捉えられる言葉をしゃべらせたのか。井上助教に取材を申し込んだが、「業務が立て込んでいるので取材を受けることができない」という返答だった。ただ、井上氏は22年11月の京都新聞の取材に対して、「自分の目標は人間のパートナーとして社会に受け入れられる会話ロボの開発。批判の中には重要な指摘も多く含まれると思っているし、AIを研究する者としてジェンダーをはじめとする倫理的問題にもしっかりと向き合っていきたい」と答えている。