最新記事

ジェンダー

若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か

PRETTY WOMAN?

2023年1月6日(金)13時32分
此花わか(セクシュアリティ・ジャーナリスト)

2つ目は、ERICAに従順さを印象付けるニュアンスのセリフを言わせたことだ。ERICAの動画を見ると、その言葉は「あははは、そうなんですね」「えへへへ、いいですね」「えへへへ、そうなんですか」「うふふふ、素敵ですね」だった。

合コンなどで、女性が男性に投げかけると「モテる」とされる「さしすせそ」と呼ばれる言葉がある。「さ」は「さすが!」、「し」は「知らなかった!」、「す」は「すごい!」、「せ」は「センスいい!」、「そ」は「そうなんだ!」。ERICAの言葉は「さしすせそ」ではないが、その様子は「何も知らない若い女の子」のような振る舞いだった。

3つ目に問題なのは、ERICAの声の高さと非現実的な言葉である。音楽ジャーナリスト・声の研究家で『声のサイエンスあの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)などの著書のある山﨑広子氏によれば、動画の中のERICAの声の高さは「あはは」は400ヘルツ前後、「いいですね」「すてきですね」は300~360ヘルツと高め、最後の「えへへへ」は200ヘルツ前後と低めだったが、全体的に高めと言える声だった。

人間の声の高さには体の大きさに比例する声帯の長さが関係している。小柄なアジア系女性の声はほかの人種よりも高くなる傾向があるが、日本人女性の声は先進国では一番高いと言われてきた。

山﨑氏によると、高い声は未成熟さや弱さ、幼さを示す。女性は高い声を発することで「守られなければ生きていけない存在」と無意識的に周囲に見せる。男性優位の社会ゆえに、女性は男性に従う弱く未成熟な存在であれという社会圧があり、そのような社会の価値観に合わせて無自覚のまま女性の声は高くなった──と山﨑氏は考えている。

「日本人女性の声は1970年代くらいまでも高かったのですが、バブルの時代には一時的に少し低くなったんです。しかし街中の声を調査したところ、2000年頃からまた高くなりました。社会現象としてアニメ文化がサブカルチャーからメインストリームになり、声優の人気が高くなってアニメ以外の分野でも少女のような高い声が使われる機会が増えました」(山﨑氏)

以前ならいわゆるアニメ声を一般の大人の女性が出していたら奇異に感じられたが、そういった声が至る所に浸透し、テレビなどのメディアでも聞かれるようになったため、若い女性が知らぬうちに感化されて高い声で話すようになった──と山﨑氏は推測する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中