最新記事

ジェンダー

若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か

PRETTY WOMAN?

2023年1月6日(金)13時32分
此花わか(セクシュアリティ・ジャーナリスト)
女性ロボット

metamorworks-iStock

<しゃべるアンドロイドに女性差別だと批判が。なぜ「媚びるように話す」「若い女性」なのか>

京都大学の研究グループが2022年9月、人間の笑い声に反応して、一緒に笑い声を出す機能を搭載したヒト型ロボットを開発した。このニュースをNHKがツイートしたところ、女性差別だと炎上する騒ぎが起こった。

京都大学大学院情報学研究科の井上昴治助教らの研究グループは人工知能(AI)を活用し、対話しながら相手の笑い声を分析して一緒に笑い声を出す機能を、既に開発されていた自律対話型アンドロイドERICAに搭載した。実際の会話データから同調笑いのモデルを作り、相手の笑い声を周波数などで判断して反応する仕組みになっており、声の大きさや特徴に応じてロボットがさまざまなトーンの笑い声を出す。

NHKはERICAが会話している動画をニュースで報じただけだったが、なぜこれが「女性差別」だと炎上してしまったのか。

【動画】「えへへへ、うふふふ」──女性ロボットERICAの「同調笑い」

「美人顔」の「若い女性」

問題の1つ目は、なぜこのヒト型ロボットが若い女性だったのか、ということだ。

これまでも、アップルのSiriやアマゾンのアレクサの声がジェンダーバイアスをはらんでいると言われてきた。どちらのAIも、なぜか女性の声と名前がデフォルトになっている。

19年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が発表した報告書は、IT業界内の多様性の欠如がジェンダーステレオタイプを強化していると指摘している。日本のIT業界内の多様性については統計がないが、朝日新聞と河合塾による21年の合同調査によれば、日本の大学の女性比率は教員で26%、学長は13%。学生全体における女子の割合は45%でほぼ男女半々だが、工学部は15%、理学部は27%など、理系学部で女子比率が低い状態が続いている。

さらに女性の登用が特に遅れているのが国立大学だ。女性教員の割合は、私立大が30%なのに対し、国立大は19%。女性教授は私立が21%で国立が12%、女性学長は私立が14%で国立は2%だった。今回、ERICAの笑い声を作ったのは京都大学で、オリジナルのERICAを開発したのも大阪大学大学院基礎工学研究科の研究グループである。

大阪大学の研究ポータルサイトには、ERICA開発の研究成果のポイントとして「見た目は美人顔の特徴を参考にコンピューターで合成され......」と記載されている。日本を代表する国立大学の研究グループが女性アンドロイドを「美人顔」に作ったと堂々と記す──。「男ばかり」の環境で生きる研究グループの、ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏のチャットボット、反ユダヤ主義的との苦情受

ワールド

ロイターネクスト:シンガポール、中国・米国・欧州と

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中