若く従順で美人顔──女性ロボットERICAの炎上は開発者個人だけの問題か
PRETTY WOMAN?
metamorworks-iStock
<しゃべるアンドロイドに女性差別だと批判が。なぜ「媚びるように話す」「若い女性」なのか>
京都大学の研究グループが2022年9月、人間の笑い声に反応して、一緒に笑い声を出す機能を搭載したヒト型ロボットを開発した。このニュースをNHKがツイートしたところ、女性差別だと炎上する騒ぎが起こった。
京都大学大学院情報学研究科の井上昴治助教らの研究グループは人工知能(AI)を活用し、対話しながら相手の笑い声を分析して一緒に笑い声を出す機能を、既に開発されていた自律対話型アンドロイドERICAに搭載した。実際の会話データから同調笑いのモデルを作り、相手の笑い声を周波数などで判断して反応する仕組みになっており、声の大きさや特徴に応じてロボットがさまざまなトーンの笑い声を出す。
NHKはERICAが会話している動画をニュースで報じただけだったが、なぜこれが「女性差別」だと炎上してしまったのか。
【動画】「えへへへ、うふふふ」──女性ロボットERICAの「同調笑い」
「美人顔」の「若い女性」
問題の1つ目は、なぜこのヒト型ロボットが若い女性だったのか、ということだ。
これまでも、アップルのSiriやアマゾンのアレクサの声がジェンダーバイアスをはらんでいると言われてきた。どちらのAIも、なぜか女性の声と名前がデフォルトになっている。
19年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が発表した報告書は、IT業界内の多様性の欠如がジェンダーステレオタイプを強化していると指摘している。日本のIT業界内の多様性については統計がないが、朝日新聞と河合塾による21年の合同調査によれば、日本の大学の女性比率は教員で26%、学長は13%。学生全体における女子の割合は45%でほぼ男女半々だが、工学部は15%、理学部は27%など、理系学部で女子比率が低い状態が続いている。
さらに女性の登用が特に遅れているのが国立大学だ。女性教員の割合は、私立大が30%なのに対し、国立大は19%。女性教授は私立が21%で国立が12%、女性学長は私立が14%で国立は2%だった。今回、ERICAの笑い声を作ったのは京都大学で、オリジナルのERICAを開発したのも大阪大学大学院基礎工学研究科の研究グループである。
大阪大学の研究ポータルサイトには、ERICA開発の研究成果のポイントとして「見た目は美人顔の特徴を参考にコンピューターで合成され......」と記載されている。日本を代表する国立大学の研究グループが女性アンドロイドを「美人顔」に作ったと堂々と記す──。「男ばかり」の環境で生きる研究グループの、ルッキズム(外見至上主義)やジェンダーステレオタイプに対する意識が表れてはいないか。