「減塩でヘルシー」はウソ? 医療界が隠す「塩分たっぷり摂る日本人が長寿」という不都合な真実
ただし、少し例外があります。
前に挙げた減塩の効果は、血圧が高くない人についてのデータです。同じ調査で、すでに高血圧と診断された人は減塩をすると7mmHgくらい下がるという結果が出ているのです。
ややこしいので整理します。もともと血圧が高くない人では、減塩をしても血圧は下がりません。対して、もともと高血圧の人では、減塩で血圧が少し下がります。
「なんだ、やっぱり下がるんじゃないか」と思わないでください。
高血圧ではない人のほうが多いのですから、大筋としてはまず「下がらない」というべきです。
世の中では高血圧の診断という特殊な条件を断りもなく前提として「減塩で血圧が下がります」といっているわけですが、そちらのほうが不正確です。
それに、減塩の効果は、これから説明するように、あまりに小さいのでほとんど意味がありません。
99.4%の人は血圧を下げても下げなくても同じ
まず、データによれば、減塩で血圧が下がる幅はたったの7mmHgです。
血圧を測る習慣のある人ならよく知っていると思いますが、血圧はつねに上がったり下がったりしているものです。
体を動かすと上がりますし、おしゃべりが盛り上がっても上がります。部屋が寒くても上がります。
同じ人でも日ごとに血圧は違いますし、同じ日に、血圧をただ2回つづけて測っても、5とか10とか違って出ることはよくあります。
減塩の効果とされる幅は誤差のようなものなのです。
そして、それくらいの微妙な差で血圧が下がったとして、本来の目的である、病気を防ぐ効果はあるのでしょうか。
さきほどの薬の研究では、血圧を下げなかった場合、1年あたり心筋梗塞や脳卒中になる人が3.2%いました。血圧を下げるとこれが2.6%に減りました。差は0.6%です。
つまり、99.4%の人は血圧を下げても下げなくても同じだったのです。
薬で下げてもたいした予防効果はないことがわかります。
まして、減塩してもほんの少ししか血圧は下がりませんから、薬で下げたときのちょっとした効果と比べてもさらに小さい、ほとんどどうでもいい効果しかなくなることは予想できます。
高血圧の人でも減塩の健康効果はない
じっさいに、高血圧の人が減塩をすることで病気を防ぐ効果を調べたデータもあります(注10)。
注10 Cochrane Database Syst Rev. 2014 Dec 18;2014(12):CD009217.
結果は予想どおり、効果なしです。ですからやはり、高血圧の人であっても、減塩をしてもいいことはないのです。
どっちみち減塩はしなくていいので、本当は高血圧の人とそうでない人を分けて説明する必要もありませんでした。
しかし世の中には細かい人がいるもので、「高血圧の人が減塩をすると血圧は下がる」という、細かくどうでもいい豆知識をふりかざしては、「減塩に健康効果はない」という大局をごまかそうとしてきます。
そちらにだまされないために、あえて無意味なことを無意味だと説明しておきました。
大脇 幸志郎(おおわき・こうしろう)
医師
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。