最新記事
高齢化社会

シニア男性の死亡リスク、独身は既婚より2~3倍高く 幸福感を左右する存在とは?

2022年10月27日(木)18時56分
杉田俊介(批評家) *PRESIDENT Onlineからの転載

原因の一つとして、2007年からの年金分割制度の改革が挙げられるが(簡単にいうと、年金の最大2分の1を妻がもらえるようになった)、もちろんそれだけとは言えない(ちなみに統計的には、無職の高齢男性の場合、家事分担率が低いほど、熟年離婚率が高くなる傾向にあるのだという)。

たとえば「世界価値観調査(World Values Survey)」にある「あなたはどれくらい幸福ですか」という質問の調査結果を基に、教育統計学者の舞田敏彦が執筆した記事「中高年未婚者の不幸感」では、30代から50代の日本人男性を「既婚者」と「未婚者」に分けた幸福度の結果が示されている。

この中で、「全く幸福でない」と回答した既婚男性はわずかに6.5%である。これに対し、未婚男性(独身男性)の何と43.5%が「全く幸福でない」と回答した。

子供や孫、友人の存在はあまり影響しない

さらに独身男性は幸福度が低いのみならず、様々な健康リスクにさらされることが分かっている。未婚男性が心筋梗塞で死亡するリスクは、既婚男性の3.5倍、心臓発作による死亡リスクは2.2倍、呼吸器官系疾患による死亡リスクは2.4倍、未婚者の自殺率は既婚者と比べ45歳から54歳で2.1倍、55歳から64歳で2.4倍である。

それだけではない。三浦展『下流老人と幸福老人──資産がなくても幸福な人 資産があっても不幸な人』(光文社新書、2016年)のデータによると、一人暮らしの高齢男性にとって、子供や孫がいることは必ずしも幸福につながっていない。一方、一人暮らしの高齢女性にとっては、たとえ離れて暮らしていても、子供や孫の存在が幸福度アップの大きな要因になる。

また友人の数によってシニア女性の幸福度が上がるのに対し、男性は友人の人数と幸福度の相関関係が低い。これは友達の量よりも、質を求める傾向が男性にあるからだという(なかでも学生時代からの友人がいるかどうかが大きい)。

シニア男性を幸せにするのは「親密な女性」

一人暮らしのシニア男性の場合、同性の友人よりも、親密な女性の存在が幸福度につながる。親密な女性がいない人のうち幸福なのは32%、いる場合は58.3%で、倍近い開きがある。女性の場合、異性の友人がいる・いないによる幸福度の差は、男性ほど大きくない。

NPO法人「老いの工学研究所」の2013年の調査「"充実した老い"の実現に関するアンケート」によると、幸福度が80点以上と高かった高齢男性のうち、約8割が配偶者と同居している。そして一人暮らしの場合、幸福度が高い人はわずか4%(!)しかいなかった。

ちなみに、同アンケートによると、「今の配偶者と結婚して良かった」と回答した割合は、男性が8割超、女性が6割ほどであり、ここにも非対称なギャップがある。そして高齢女性の場合は、幸福度が高いことに、結婚状況や配偶者の存在が男性ほど大きく関与していない。むしろ経済的な不安がないこと、健康面での不安が少ないことが女性たちにとっては重要である。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米フェデックス、6─8月期利益が予想上回る コスト

ワールド

米下院議員、中国の希土類規制解除なければ航空機発着

ワールド

高市氏、午後2時半から自民総裁選政策で記者会見

ワールド

プーチン氏、コザク大統領府副長官を解任 長年の側近
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中