最新記事
日本社会

若者の「恋愛離れ、セックス離れ」はウソ 内閣府「20代の4割がデート経験なし」の本当の意味

2022年7月4日(月)13時30分
荒川和久(コラムニスト・独身研究家) *PRESIDENT Onlineからの転載

40年前と変わらないのになぜ婚姻数は減っているのか

同時に、当時は元祖SNSともいわれるケータイサイト「前略プロフィール(通称「前略プロフ」)」が流行し、出会い系や援助交際のツールとしても使われる等、2000~2005年当時は、逆に「若者の性の乱れ」が問題視されていたことも事実です。2005年頃、若者の恋愛やセックスが増えても、婚姻は増えなかったというのはなんという皮肉でしょう。

さて、ここでひとつ疑問が生まれます。40年前の若者の恋愛率も性体験率も今と変わらないのだとしたら、昨今の未婚化や婚姻減少はどういうことなのだろうか、と。

確かに、1980年代までは、日本は男女とも生涯未婚率5%未満のほぼ全員が結婚する皆婚社会でした。しかし、この皆婚社会を実現したのは、若者本人たちの意志や価値観ではなく、社会的な結婚お膳立てシステムといわれる「お見合い」によるところが大きかったからです。

出生動向基本調査における、初婚の夫婦の結婚のきっかけ推移をみると、戦前は約7割の結婚がお見合いによって成立していました。その後、徐々にお見合い結婚比率は衰退し、1965年あたりで恋愛結婚と並びます。注目していただきたいのは、1980年代後半に、お見合い結婚比率は25%まで落ち込む部分です。

結婚形態の推移若年男性の童貞率

「恋愛しない、できない」人たちが可視化されただけ

仮に、いつの時代も25歳以上の未婚男の童貞率が25~30%で推移していたとしましょう。1980年代までは、このお見合いによって、いわゆる恋愛最弱者3割の未婚男性たちは救済されていたと解釈できます。もちろん、お見合い結婚の男性がすべて童貞だったとまでは言いませんが、お見合いによって初めて付き合うという体験をし、性体験をし、結婚したという男性がいなかったわけでもないと考えます。

その後、お見合い比率は5%台まで激減します。直近の25~34歳の未婚男の童貞率は29%ですが、彼らがアラフィフとなる20年後には、男の生涯未婚率は約30%になると推計されています。数字のつじつまは合っています。

自由恋愛を謳歌できるのは、しょせん3割の恋愛強者男女に限られます。中間層の4割はともかく、恋愛最弱者の3割は、今後も「恋愛は自己責任」という重い扉の前で途方に暮れてしまうことでしょう。未婚化や非婚化は、若者の恋愛離れでもなんでもなく、救済制度としての社会的マッチングシステムの消滅により可視化された恋愛最弱者3割の姿なのだと思います。

便宜上、強者と比較するために恋愛最弱者という表現にしていますが、この中には「恋愛したいのにできない層」と「そもそも恋愛自体に興味関心がない層」が混在します。前者には何かしら救いの手が求められますが、後者にとっては「非恋愛の自由」を謳歌しているのかもしれないという視点も必要かもしれません。

荒川和久(あらかわ・かずひさ)

コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中