最新記事

0歳からの教育

子供の英語力を育てる上で「早期教育」よりも大切なこと

Setting Goals for English Learning

2022年2月24日(木)17時30分
井口景子(ジャーナリスト)
赤ちゃんと英語

英語に親しみ「分かる楽しさ」を経験すれば、意欲面でも知識面でも将来の学習につながる Bennewitz-iStock

<早期教育熱は高まる一方だがブームに流されるのは禁物。「分かる楽しさ」を経験させ、将来のゴールを想定し、今後の学習の基盤をつくろう>

あらゆる刺激を吸収して日々目覚ましく成長する赤ちゃんを見ていると、「この子に秘められた無限の可能性を伸ばしてあげなくては」という思いに駆られるもの。なかでも、グローバル社会を生き抜く武器として英語力を与えてあげたいという願いは多くの親に共通している。

子供は耳が抜群にいいから、今のうちから学び始めればバイリンガルになれるかも。このタイミングを逃したら手遅れになるのでは......。そんな期待と焦りが募り、早期英語教育熱は高まる一方。家庭で使用する「おうち英語」関連教材の人気はうなぎ上りで、親子で通う赤ちゃん向け英会話教室や英語で保育を行うプリスクール(主に2~6歳向けの英語の幼稚園)への注目も高まっている。

実際、10歳前後までの時期は言語習得の黄金期で、適切な環境下で過ごせば複数の言語を使いこなせるようになる。ただしそのためには、複数の言葉が日常的に使われている環境が不可欠。言葉の習得には2万時間のインプットが必要とも言われており、英語を使う必然性のない日本の一般家庭で少々英語に親しんだくらいで、自然に言葉があふれ出すことはないというのが専門家の共通認識だ。

「最初の3年間は人間としての基盤をつくる重要な時期。ブームに流されず、むしろ母語でたっぷり語り掛けて豊かな土台を築いてあげてほしい」と、青山学院大学のアレン玉井光江教授(英語教育学)は言う。

もっとも、これは乳幼児期の英語体験が無意味ということではない。幼い子供の強みは、意味がよく分からない状況でも気にせずに楽しめること。母語での豊かなコミュニケーションに加えて、外国語の絵本や歌に触れながら「なんとなく分かって楽しかった」という経験を積み重ねられれば、意欲の面でも知識面でも将来の学習の基盤づくりにつながる。

そんな子供の強みを生かすには、いくつかの条件がある。まず、知識やルールを教え込もうとしないこと。間違いを指摘して正しい発音や表現を覚えさせたり、いちいち日本語に訳して解説したりすると、子供は「分からない」状態を苦痛に感じて英語にマイナスのイメージを持ってしまう。「分かる楽しさ」を引き出せるよう、日常生活でなじみのあるシーンが多い教材や、日本語で読んだことのある物語を用意する工夫も有益かもしれない。

双方向の働き掛けが必要

教材選びの際には、インタラクティブな関わりを持ちやすいものを選ぶことも大切だ。子供は「言葉のシャワー」を浴びて自然に言語を覚えるとよく言われるが、実際には双方向のコミュニケーションが不可欠で、DVDやCDを流しっぱなしにする一方通行の刺激では効果は薄い。

アメリカの生後10~12カ月の赤ちゃんを対象にした実験では、中国語のネイティブ話者に直接語り掛けられたグループは中国語特有の音を聞き分けられるようになったが、同じ話者による録音音声やビデオ映像を視聴しただけのグループにはそうした学習効果は見られなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB議長に選ばれなくても現職にとどまる=米NEC

ビジネス

米小売業の求人、10月は前年比16%減 年末商戦の

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模

ワールド

ウクライナ・エネ相が辞任、司法相は職務停止 大規模
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中