目は確実に老化する。白内障、緑内障、そして日本で近年増加中の「失明原因」とは?
これらは水晶体の硬化と着色がもたらす調節力ならびにコントラスト感度の低下によるもので、いま見えている世界は、20歳の頃に見えていた世界とは違います。
変化は徐々に起こるため気づいていないだけで、見え方は確実に「老化」しています。桜のピンクも、菜の花の黄色も、新緑の緑も、みんな昔見えていた色とは違うのです。
ただし、水晶体の硬化と着色によるこのような現象は、すべて「生理的老化」であり、生物として当然の変化です。五感が鈍れば世間の嫌なことに感じるストレスも減るし、死に対する恐怖さえも和らぎ、よい面もあります。
ところが、ここに「病的老化」が加わると厄介です。人生に苦難がわき起こります。周りに迷惑をかけます。
眼の「病的老化」としては白内障、緑内障がよく知られていますが、もうひとつ、最近注目されているのが「加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration=AMD)」です。
AMDは欧米人の失明原因のなかでもっとも多く、古くから恐れられてきました。わが国でも近年増加していて、テレビ番組や新聞・雑誌で紹介される機会が増えました。「加齢」と名がつくように、その原因の根底には「老化」があり、誰もが発症する可能性のある病気です。
AMDは、眼球の底(眼底)にある網膜の、特に中心部分が壊れる病気で、まず、見たいところ(視野の真ん中)が見えなくなり、見えない範囲がだんだん広がっていく病気です。厄介なことにひとたび発症したら根治はできず、生涯、失明の恐怖と戦うことになります。
現在の患者数は世界中で約2億人、わが国では約90万人と推定されます。50歳以上の日本人の63人にひとり程度がAMDに苦しんでいることになります。
なんとしても避けたい、高齢になってからの視覚喪失
日本人の平均寿命(2020年)は女性が87.74歳、男性は81.64歳。女性は8年、男性は9年連続で過去最高を更新中であり、それぞれ世界1位と2位(1位はスイス)。
「人生百年時代」というフレーズが囁かれるのもうなずけます。それは、戦後の苦境から努力して這い上がった日本の輝かしい成果と言えるでしょう。
しかし、そう喜んでばかりもいられません。実際には、何不自由なく元気に百歳を迎えられる人は稀で、ピンピンコロリという理想を全うできる高齢者はほんのひと握りです。現実はそんなに甘くありません。
カラダの不調は、どこに生じても不便なものですが、とりわけ高齢になってからの視覚喪失は「非常に厳しい」と言わざるを得ません。