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「坂バカ」俳優・猪野学「自転車にも人生を変える力がある」

2020年5月1日(金)16時05分
朴順梨(ライター)

肉体の変化を老化と悲観せず、楽しめばいい

レース参加やレギュラー出演中の自転車情報番組『チャリダー★』(NHK BS1)を通して、世界屈指のサイクリストから視聴者まで、多くの人との出会いを果たしてきた。自転車で結ばれた縁は、横に横にと広がっている。


この間のスペイン撮影でアレハンドロ・バルベルデってチャンピオンに会ってきたんですけど、すごいスピードで坂を登る人が自分の隣にいる感動は、自転車に乗っていたから味わえたと思います。

自転車があれば相手のアイテムを見て「いいですね~」ってコミュニケーションが取れるから、初対面の人とも仲良くなれる。俳優だけだったら出会わなかったかもしれない人々の人生に触れられるのも、面白いところです。

『自分に挑む!』は産経デジタルが運営するCyclist(サイクリスト)というウェブサイトの連載に、書下ろしを加えている。連載も含めて全てが誰かによる聞き書きではなく、猪野さんが自ら書いている。


文章を書くのは苦しいです。連載は1カ月に1本のペースで書くんですけど、最初は苦しかったです。でも芝居の本や戯曲を読んでいたので、文章では起承転結や構成、つかみや締めが大切なのは分かっていて、続けるうちに割と楽になりました。

連載は4年ぐらい続けていますが、まさか僕がこんなに書くとは(笑)。実は祖父が劇作家だったんですよ。だから父には「遺伝だね。じいちゃんと一緒で表現力があるね」と褒められました。でも、自転車に乗らない人がどう読んでいるのかなってことは気になりますね。

ママチャリしか持っていない筆者だが「猪野さんが疾走している姿が目に浮かんできました。同年代の猪野さんがここまで自分を追い込んでるのを見ると、頑張れって思う。そして私も、まだまだ余白があるのかなって感じました」と言うと、笑顔を浮かべた。


SNSに「この本には自己啓発的な要素もある」と書いてくださった方がいるんですが、それが驚きで。でもいろいろ頑張ってきたことを書いたので、人生を生き抜くヒントに捉えてくださったのかもしれません。

昔教わった演出家の方が「演劇とは魂の救済だ」とおっしゃったんですが、演劇には確かに人生を変えてしまう力がある。でも自転車にも、人生を変える力があると思っています。

センスがないのか、(レースは)全然勝たせてくれないんですよ。あまり向いてないのが自分でも分かっているけど、ねじ伏せたい気持ちがあって。

40代半ばで肉体の変化を自覚したが、老化したと悲観せず楽しめばいいと感じていると明かす。なぜなら「人生には変化がないと苦痛だし、こんな風に考えるようになったんだという気付きが、芝居に直結する」と信じているからだ。


年を重ねることで演じ方やアプローチが変わってきているので、芝居を長くやってきてよかったと思っています。人生100年時代だから、50歳を迎えるのが今はむしろ楽しみ。

新型コロナウイルスのためにレースが軒並み中止になっていますが、体調が上がってきているので毎日自分を追い込んで、コンディション維持に努めています。レースが再開されたら、お世話になった方々のためにも今年は入賞したいですね。でもセンスないからなあ(笑)。

cyclebook20200501-cover.jpg自分に挑む!
 ――人生で大切なことは自転車が教えてくれた』
 猪野 学 著
 CCCメディアハウス

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