3000人を看取った医師が教える「80歳以上が今すぐやるべきこと」
80歳以上の人が病気で倒れる確率は、格段に高い。さらに倒れてしまうと、70%の人が自分の意志で判断できなくなるというデータがある。高齢者は「その先についての考え」を元気なうちに意思表示しておくことが大切だ。そして、これらを考えるときに、自分の体調をよく分かっているかかりつけ医は心強い存在になるという。
認知症一人暮らしでも在宅で看取ることはできる
軽い認知症を抱えながらも、一人暮らしをしていた84歳の女性を在宅で看取った事例も本書に紹介されている。
その女性は、がんを抱えつつも、介護サービスや近所に住む娘さんの力を借りて、一人暮らしを続けてきた。認知症は話が普通に通じることもあれば、そうでない時もある。いわゆるまだら認知症という状態だ。
認知症の自覚があるその女性は、平方医師と娘さんの3人でこれからのことを話すと、「いろいろなことがわからなくなって、どうしようもない行動をするようになったら......施設や病院に入ってもいい」と言ったという。しかし、それを聞いた娘さんは、「最期まで家にいたいという気持ちの裏返しなのではないか」と感じた。
その結果、早くから家で看取る環境を整えたため、周囲も落ち着いて一人暮らしを見守ることができたのだ。女性は1年あまりの在宅介護の末に亡くなったが、娘さんも「母の希望が叶えられてよかった」と感じており、すがすがしい看取りだったと平方医師は振り返る。
本人の状況や周囲の助けによっては、住み慣れた家での暮らしを続けることも可能になるというわけだ。そのためには、早い段階で周囲が気付き、分からなくなってしまう前に話し合っておくことが必要だ。
認知症の人は、環境の変化に弱く、話し合いの時には納得していても、話し合った内容を忘れてしまうことがある。特に現在の医療や介護では、「入院はなるべく短期で」と早く退院させ、施設にも長期滞在はできず、さまざまな場所に回されてしまうケースも多い。これは認知症の人にとっては最悪の状態だ。
認知症の人を理解し、どうすれば安心して暮らすことができるかを社会全体で考えていく時が来ていると、平方医師は考えている。
人生の「しまい方」を考えることは大切だ。とはいえ、自分の「死」と向かい合うことの不安もあり、なかなか踏み出せないという人も多いかもしれない。そんなときに本書を読めば、優しく穏やかに患者を見守る平方医師の温かい人柄や、それを支える医療・介護従事者の声がそんな不安にも寄り添ってくれるだろう。
『人生のしまい方――
残された時間を、どう過ごすか』
平方 眞 著
CCCメディアハウス
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