最新記事

医療

3000人を看取った医師が教える「80歳以上が今すぐやるべきこと」

2020年5月13日(水)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

80歳以上の人が病気で倒れる確率は、格段に高い。さらに倒れてしまうと、70%の人が自分の意志で判断できなくなるというデータがある。高齢者は「その先についての考え」を元気なうちに意思表示しておくことが大切だ。そして、これらを考えるときに、自分の体調をよく分かっているかかりつけ医は心強い存在になるという。

認知症一人暮らしでも在宅で看取ることはできる

軽い認知症を抱えながらも、一人暮らしをしていた84歳の女性を在宅で看取った事例も本書に紹介されている。

その女性は、がんを抱えつつも、介護サービスや近所に住む娘さんの力を借りて、一人暮らしを続けてきた。認知症は話が普通に通じることもあれば、そうでない時もある。いわゆるまだら認知症という状態だ。

認知症の自覚があるその女性は、平方医師と娘さんの3人でこれからのことを話すと、「いろいろなことがわからなくなって、どうしようもない行動をするようになったら......施設や病院に入ってもいい」と言ったという。しかし、それを聞いた娘さんは、「最期まで家にいたいという気持ちの裏返しなのではないか」と感じた。

その結果、早くから家で看取る環境を整えたため、周囲も落ち着いて一人暮らしを見守ることができたのだ。女性は1年あまりの在宅介護の末に亡くなったが、娘さんも「母の希望が叶えられてよかった」と感じており、すがすがしい看取りだったと平方医師は振り返る。

本人の状況や周囲の助けによっては、住み慣れた家での暮らしを続けることも可能になるというわけだ。そのためには、早い段階で周囲が気付き、分からなくなってしまう前に話し合っておくことが必要だ。

認知症の人は、環境の変化に弱く、話し合いの時には納得していても、話し合った内容を忘れてしまうことがある。特に現在の医療や介護では、「入院はなるべく短期で」と早く退院させ、施設にも長期滞在はできず、さまざまな場所に回されてしまうケースも多い。これは認知症の人にとっては最悪の状態だ。

認知症の人を理解し、どうすれば安心して暮らすことができるかを社会全体で考えていく時が来ていると、平方医師は考えている。

人生の「しまい方」を考えることは大切だ。とはいえ、自分の「死」と向かい合うことの不安もあり、なかなか踏み出せないという人も多いかもしれない。そんなときに本書を読めば、優しく穏やかに患者を見守る平方医師の温かい人柄や、それを支える医療・介護従事者の声がそんな不安にも寄り添ってくれるだろう。


人生のしまい方――
 残された時間を、どう過ごすか』
 平方 眞 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

202003NWmedicalMook-cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

SPECIAL EDITION「世界の最新医療2020」が好評発売中。がんから新型肺炎まで、医療の現場はここまで進化した――。免疫、放射線療法、不妊治療、ロボット医療、糖尿病、うつ、認知症、言語障害、薬、緩和ケア......医療の最前線をレポート。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中