3000人を看取った医師が教える「80歳以上が今すぐやるべきこと」
(1)は、体内に水分とエネルギー源や微量栄養素を入れる方法で、場合によっては年単位で生きることができる。
(2)の点滴の中身はほとんどが水分で、体にある皮下脂肪、筋肉や内臓にある栄養が生きるための燃料になる。痩せて体力が少なくなっていくと水分も受け止められなくなるので、点滴の量を徐々に減らし老衰に近い形で看取ることになる。
(3)は、「口から食事を摂れなくなったときが寿命」という考え方をするヨーロッパでは比較的多くの人が選ぶ方法だ。日本では、まだ選択する人は少ない。
男性の家族が選択したのは、(2)である。「積極的に命を伸ばす治療はしなくていいが、せめて点滴は続けてほしい」とのこと。救急車で運ばれてから3週間後、男性は病院で息を引き取った。
だが葬儀の数日後、男性の部屋から「エンディングノート」が見つかった。そこには「延命治療は希望しない」「最期を迎えるのは病院よりも自宅がいい」という欄にチェックがしてあったという。家族は、もしエンディングノートの存在を知っていたら人工呼吸などの苦しい治療は選ばなかったかもしれない、と複雑な思いを抱えた――。
人生の最期を迎えるにあたり、残された人に気持ちを伝える方法の代表的なものに「エンディングノート」のほか、「遺言書」や「リビングウィル」がある。平方医師によると、これらを書くことは、自分の考えを整理するためにもよいことだという。
ただし、家族や医療従事者など信頼できる人にこのノートの存在を知らせておく必要がある。自己完結してノートをしまい込んでいたら、この83歳の男性のように自分の思いを伝えられずに最期を迎えることになってしまうからだ。
病気で倒れると、70%が自分の意思で判断できなくなる
特に元気な高齢者の方たちには、今すぐに人生の最期を考える話し合いを始めてほしいと平方医師は訴える。持病があっても命に差し迫った状況ではない高齢者は、人生の最期について具体的なイメージを持っていない人が多い。しかし、「子供の世話にはならない」と言いながら、いざとなったら子供に委ねてしまうというケースがよくあるのだ。
また、100歳近くまで長生きする人が増えた最近は、「逆縁」といって子供のほうが先に亡くなる現象も増えている。そうなると超高齢になった自分を看取ってくれる子供がいなくなってしまうのだ。
平方医師は、80歳になったら、少なくとも具合が悪くなった場合にどこで過ごしたいか、積極的な治療を受けたいか、もしくは自然な流れで無理な延命はしたくないのかを考えておくことを勧める。