最新記事

医療

3000人を看取った医師が教える「80歳以上が今すぐやるべきこと」

2020年5月13日(水)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

(1)は、体内に水分とエネルギー源や微量栄養素を入れる方法で、場合によっては年単位で生きることができる。

(2)の点滴の中身はほとんどが水分で、体にある皮下脂肪、筋肉や内臓にある栄養が生きるための燃料になる。痩せて体力が少なくなっていくと水分も受け止められなくなるので、点滴の量を徐々に減らし老衰に近い形で看取ることになる。

(3)は、「口から食事を摂れなくなったときが寿命」という考え方をするヨーロッパでは比較的多くの人が選ぶ方法だ。日本では、まだ選択する人は少ない。

男性の家族が選択したのは、(2)である。「積極的に命を伸ばす治療はしなくていいが、せめて点滴は続けてほしい」とのこと。救急車で運ばれてから3週間後、男性は病院で息を引き取った。

だが葬儀の数日後、男性の部屋から「エンディングノート」が見つかった。そこには「延命治療は希望しない」「最期を迎えるのは病院よりも自宅がいい」という欄にチェックがしてあったという。家族は、もしエンディングノートの存在を知っていたら人工呼吸などの苦しい治療は選ばなかったかもしれない、と複雑な思いを抱えた――。

人生の最期を迎えるにあたり、残された人に気持ちを伝える方法の代表的なものに「エンディングノート」のほか、「遺言書」や「リビングウィル」がある。平方医師によると、これらを書くことは、自分の考えを整理するためにもよいことだという。

ただし、家族や医療従事者など信頼できる人にこのノートの存在を知らせておく必要がある。自己完結してノートをしまい込んでいたら、この83歳の男性のように自分の思いを伝えられずに最期を迎えることになってしまうからだ。

病気で倒れると、70%が自分の意思で判断できなくなる

特に元気な高齢者の方たちには、今すぐに人生の最期を考える話し合いを始めてほしいと平方医師は訴える。持病があっても命に差し迫った状況ではない高齢者は、人生の最期について具体的なイメージを持っていない人が多い。しかし、「子供の世話にはならない」と言いながら、いざとなったら子供に委ねてしまうというケースがよくあるのだ。

また、100歳近くまで長生きする人が増えた最近は、「逆縁」といって子供のほうが先に亡くなる現象も増えている。そうなると超高齢になった自分を看取ってくれる子供がいなくなってしまうのだ。

平方医師は、80歳になったら、少なくとも具合が悪くなった場合にどこで過ごしたいか、積極的な治療を受けたいか、もしくは自然な流れで無理な延命はしたくないのかを考えておくことを勧める。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 7

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中