最新記事

インタビュー

「自分らしさ」は探さない──「ありのまま」「あなたらしさ」の落とし穴

2020年4月2日(木)18時25分
Torus(トーラス)by ABEJA

磯野:ちょうど今日、大学で講義をしたんですが、受講していた学生からこんな話を聞きました。

SNSのストーリーに脱毛の広告がやたらと流れてくる。「元カノはすべすべだったんだけど」「20代女子からの予約殺到中」といった内容だ、と。それを聞いた学生の一人が「脱毛していない私は汚いんだろうかと思う」と話していたのが印象的でした。

この場合、「承認」を受けたいというより、「普通」から外れないように、と考えている節がある。

売る側としては、脱毛・美白・アンチエイジングをしてほしい。だから「何かが欠けていませんか」とメッセージを流します。周りも脱毛した、なんて話が実際出てきたら、受け手は「自分は平均より下なんじゃないか」「普通から外れているんじゃないか」と感じるんだと思います。

劣等感・逸脱感が作り出され、「逸脱しない自分」になるための「コンプレックス商材」が売られている。SNSなど個人にカスタマイズされたテクノロジーが発信する広告などの呼び声に無批判に取り込まれてしまうと、自分は何がしたくて、何がしたくないのかを見極めることが難しくなってします。


恥じらいや性的な興奮は、自分の意思とは関係なく生まれてくるどうにもあらがえないもののように思えます。ですが、そんな気持ちの中にすら、それぞれの文化が持つ価値観が滑り込むのです。(中略)気持ちを自分だけのものだと思いすぎると、私たちをとりまく世界が、私たちの気持ちを作っているという事実に気づきにくくなり、逃げるという選択肢がみえにくくなります。(『ダイエット幻想──やせること、愛されること』より引用)

数字はときに、世界の彩りを消し去る

Torus200311_4.jpg

──摂食障害の人は、自身の体重や体脂肪、カロリーや炭水化物の量など、「数字」にとてもこだわりますね。

磯野:私も摂食障害の当事者にインタビューしているときに「数字にとらわれているな」と感じました。そういう面は確かにあると思います。

ただ、それまで摂食障害の当事者がカロリーや体重など数字にこだわりをもつのは、よく見られる「症状」だと認識されるにとどまり、数字へのこだわり自体が分析対象にはなっていなかった。数字そのものが、いったいどういう意味を持ち、何を引き起こすのかーー摂食障害研究では、この視点が見過ごされていたと言っていいと思います。

この間、『ダイエット幻想』を読んでくれたという高校生がTwitterで「7200kcalのカロリー貯金をしたい」とつぶやいていました。

食べ物を、「数字」に変換し、収支を計算する。こういう考え方が今の社会で一般的なのは、疫学データで集団の健康を分析する「予防医学」が普及し、健康も「自己管理」できる、という考えの影響が大きいと思います。

「○○を食べている人は病気になりやすい・なりにくい」「肥満の人は様々な病気になりやすい」といった情報が広まると、食べ物・食べ方そのものが健康に「いい」「悪い」と価値づけされるようになり、人々の価値観として内面化されていく。

お茶を飲むときですら「これはゼロカロリーだから"よい"飲み物だ。しかもジンジャーが入っているらしいので、これは身体にいい」とか「このオレンジジュースは、角砂糖いくつ分だから飲むと体に悪い」とか、ある種、アタマで食べ物をとらえてしまうようになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

任天堂、 政策株縮減で最大3300億円の売り出し決

ビジネス

UBS、米国株の投資判断を「中立」に引き下げ 他地

ワールド

英マンチェスター補選、労働党が牙城失う 緑の党勝利

ビジネス

日経平均は4日続伸し終値ベースの最高値、TOPIX
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルーの大スキャンダルを招いた「女王の寵愛」とは
  • 4
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 5
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 6
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「まるで別人...」ジョニー・デップの激変ぶりにネッ…
  • 9
    【和平後こそリスク】ウクライナで米露が狙う停戦「…
  • 10
    「3列目なのにガガ様が見えない...」観客の視界を遮…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 5
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中