何もない......でも何かに出会える国 日本から「一番遠いASEAN」ラオスの魅力とは
穏やかで悠然とした時間が流れるラオス
このほかにもカムアン県にはシコッタボン・ストゥーパ、ブッダ洞窟、メコン川を挟んでタイを臨むフランス植民地時代からの古都ターケークなど日本人に馴染みのない観光スポットがある。チェンマイからは空路も鉄路もなく、バスなどの公共機関を乗り継ぐかツアーの車でしかたどり着けないというアクセスの難しさが逆に魅力となっている。
ラオス料理はもち米に豊富な生野菜のサラダ、若いパパイヤやトマトを魚醤で味付けしたタム・マークフン(タイ料理でいうソムタム)というサラダなど新鮮な野菜が必ずテーブルには並ぶ。さらにラープと呼ばれる肉や魚にレモン、ライム、香草を混ぜて炒めた料理など、メコン川の幸と呼べる川魚を焼いたり蒸したりした料理は質素で健康的だ。
また人口の約90%が敬虔な仏教徒であることから、各地に仏教寺院があり、日々熱心に祈りを捧げる人びとの姿がみられるなど、平和で穏やかな時間が悠然と流れていることも魅力のひとつだろう。
こうした農業国らしいのどかな風景が拡がるラオスだが、一方ではベトナム戦争当時、北ベトナムの物資人員輸送補給路「ホーチミンルート」となったため、米軍の猛爆を受け「世界で最も空爆された国」ともいわれる。カムアン県のレストランや展示館には当時の不発弾が展示され、ビエンチャンには不発弾による被害で負傷した人びとを支援する資料館「コープ・ビジター・センター」があり、夥しい数の義手や義足が展示され、いまなお事故が起きる不発弾被害の実態を伝えている。
ラオス情報文化観光省によると、2018年にラオスを訪れた外国人観光客は前年から8.2%増えて約410万人になった。そして2019年には少なくとも450万人の来訪で観光収入7億ドルを見込んでいるという。日本では、2019年11月にラオス航空が熊本空港とビエンチャン、ルアンバハーンを週に2回結ぶ直行便を運航する計画があり、定期直行便の就航でこれまで遠かったラオスがようやく近くなる。
今回、中部ラオスを訪れて感じたのはこの国が「何もない国」そして「何かに出会える国」であるということだ。その何かとは、手付かずの自然であり、その自然の恵みを活かした地元料理であり、どこまでもおおらかで親しみやすい笑顔にあふれた人たちという、今東南アジア各国が失いつつあるものだった。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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