最新記事
能登半島地震

「輪島復興」に立ち上がる若者たちの声を聞け――過疎高齢化の奥能登で、人を動かし旗振り役を務める勇者たち

Seeds For the Recovery

2024年10月5日(土)18時20分
小暮聡子(本誌記者)

newsweekjp20241005084415-00ce465a53adf55e1156b542ae568cbd5dedd506.jpg

気仙沼キャンプに参加した河原清二(9月12日、七尾高校前)TORU YAGUCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

3.11の経験を能登につなぐ

8月初め、宮城県気仙沼市で、地元の町づくり事業や子供たちの探究学習を支援する一般社団法人「まるオフィス」が能登の高校生たちを招いて2泊3日の「気仙沼キャンプ」を主催した。

まるオフィスは、13年前の東日本大震災を機に気仙沼に移住した若者と地元の若者が立ち上げたNPO。今回のキャンプを一緒に企画・運営したのは、復興に向かう気仙沼の町で生きてきた気仙沼出身の大学生たちだ。

石川県穴水町在住で、石川県立七尾高校に通う河原清二(17)も、このキャンプに参加した。その理由は「復興のために自分には何ができるんだろうって考えたときに、3.11で復興に携わった人たちに当時の経験を聞きたかったから」だ。

今年1月に家族と共に輪島で被災した河原は、避難所や関西の親戚宅を転々とした後、母と弟2人と穴水に引っ越した。父は輪島で働き、妹は大阪の中学に転校したので、今は家族が離れ離れだ。

13 年前に津波と火災で火の海と化し、その後復興した気仙沼で地元の人たちと交流した河原は、「13年たったらこういう感じになれるというイメージを持てた」と言う。

気仙沼出身の岩槻佳桜(19)は、東日本大震災後に自分が他者から受け取ってきたものを返したいという思いでキャンプを企画した。高校時代、地域と関わることの面白さを教えてくれたのが、まるオフィスの大人たちだった。

newsweekjp20241005084754-2d0ff0022ffc9d1527c135fbd30fc1c45a9f3bd8.jpg

気仙沼出身の岩槻佳桜は輪島でボランティア(9月13日、旧輪島駅)TORU YAGUCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

彼女が震災を経験したのは5歳のとき。自宅や家族は無事で、その後の復興の過程では「支援とか、何も分からないまま育ってしまった」。服や本や新しいおもちゃが、小学校の昇降口に段ボールで届く。「好きなものを持っていっていいよ」と言われるのが当たり前で、当時はそれが支援物資だと分からなかった。

岩槻は、そのときに「ありがとう」と言えなかった自分に「目を背けながら生きてきた」が、今なら何か人の役に立てるかもしれないと思って能登に来た。将来は気仙沼に戻って働きたいという彼女は今、東京の大学の夏休みを利用して輪島市で子供支援のボランティアをしている。

河原もまた、震災の経験を糧に変えようとしている。高校卒業後は「災害に強く、人がつながりやすい街づくり」を学ぶため、大学で建築を勉強したいと言う。

「それぞれの街にあるものを生かすべき。全部、東京と同じになったら面白くない」と、自分だけでなく、故郷である能登のあるべき未来も見据えている。

復興という言葉は、被災地を生きる能登の多くの人にとってはまだ絵空事に響くだろう。それでも若い彼らの生きざまは希望であり、1つの答えでもある。杉野は言った。「最後には必ず復興しますから」と。(了)

<10月5日追記>
9月21日~22日にかけて奥能登を襲った豪雨により、本記事で取材した輪島市には震災に追い打ちをかけるような被害が発生した。しかし、記事中で紹介した「ゲストハウス黒島」の杉野はすぐにゲストハウスを被災した方とボランティアに開放。「大雨の後、自分がどこを向いてがんばれば良いのかしばらく迷っていたが、ゲストハウスの本業を通して復興にも貢献していこうと決めた」と言う。

米農家に転身した山下が住む町野町は豪雨による被害が甚大で、彼が震災後に丹精込めて作り上げた田んぼも駄目になってしまった。しかし今、山下は町野復興プロジェクト実行委員会が運営する新たなボランティア拠点「まちなじボラセン」を立ち上げ、認定NPO法人カタリバのサポートの下でボランティアを募集し復旧活動に全力を挙げている。

豪雨の後も、彼らは歩みを止めていない。

●「ゲストハウス黒島」はボランティアの宿泊受付中。輪島市内で宿泊できる場所は貴重だ。ゲストハウス運営のためのクラウドファンディングはこちら

●「まちなじボラセン」は、輪島市東部地区の ボランティア申し込みを絶賛受け付け中。町野、南志見、鵠巣の東部地区ではまだまだ人手が足りない状況だという。
<町野復興プロジェクトの支援先>
興能信用金庫 柳田支店
普通 8038893
町野復興プロジェクト実行委員会委員長 山下祐介

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中