最新記事
BOOKS

神田伯山が語る25年大河ドラマ主人公・蔦屋重三郎「愛と金で文化・芸能を育てた男」

2024年10月8日(火)16時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

newsweekjp20241001105121-be323f4bf4520da26dcc6c66eb27cab31810d7ea.jpg

人生、賭けに出なければならない時がある

考えてもみれば、僕が講談師になったというのは、大きな博打であり挑戦でした。僕が入門した十数年前は、今よりもずっと講談が知られていませんでした。うちの師匠の神田松鯉(しょうり)をはじめ、多くの人が頑張って講談を支えていらしたのですが、冷静に考えれば、当時、講談の世界に飛び込むということは、それを永久就職先にするわけです。なかなかの大博打だなと今更ながら思います。

蔦重も23歳で自分の店を持って、出版に賭けたわけですよね。そうやって、勝負に出ないといけないときが確かにあるのだろうと思います。

また、新しい文化・芸能に投資し、さまざまな出版物を刊行していますが、その分、失敗することも多かったでしょう。逆に商品がヒットして、あまり目立ちすぎると、お上からは処罰を受けたりもする。それでも逃げずにずっとやり続けるというところにも魅力を感じますね。

反骨の講釈師・馬場文耕と蔦重

その反骨精神は、蔦重よりも少し前の時代に活躍した講釈師・馬場文耕にも通じるところがあるかなと思います。当時、講釈師というのはジャーナリスティックなイメージもある存在でした。

もともと講釈は侍・浪人の芸で、気骨があり、ドキュメンタリーやノンフィクションのようなものだったのです。馬場文耕は、1754(宝暦4)年頃に起きた、郡上(ぐじょう)藩藩主・金森頼錦(よりかね)が強行した財政再建策に農民が反発した金森騒動を題材にし、高座にかけました。

その後、それをもとに『平かな森の雫』という著作にまとめ、幕政批判をしたことで、打首獄門の刑に処されています。

長い講談の歴史でも、死罪となったのは馬場文耕だけです。宝暦8年に小塚原刑場で獄門に処され、41歳で亡くなります。当時、寛延3年生まれの蔦重は9歳くらいで、物心がつくかつかないかの頃。直接的な関係はないけれども、時代の雰囲気は共有していたのかもしれません。

蔦重にも馬場文耕のような反骨精神を感じるところがあります。文耕は命を落としてまでもやるという侍の気骨がありますが、町人出の蔦重は距離を取りながら、笑いを交えて、ぎりぎりの線で、体制を風刺していく。お上を洒落のめす。そうした反骨精神も、蔦重の魅力的な部分ですね。


神田伯山(かんだ・はくざん)

1983年東京都生まれ。講談師。日本講談協会、落語芸術協会所属。2007年に三代目神田松鯉に入門。2012年に二ツ目昇進。2020年に真打昇進とともに、六代目神田伯山を襲名。主な著書に『講談放浪記』(講談社)、『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)などがある。

newsweekjp20241001115047-ee86b8473e023f94c5bb356eb9d63c033a7c24e8.jpg
Pen BOOKS 蔦屋重三郎とその時代。
 ペン編集部[編]
 CCCメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


newsweekjp20241001110840-52d8ba4d464f051b147f072154166ed910f7d37d.jpg

newsweekjp20241001110900-d17961cf9be794dc02a88e04cb4a7558dd610fb8.jpg

20241015issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年10月15日号(10月8日発売)は「米経済のリアル」特集。経済指標は好調だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、8月は704億ドルに大幅縮小 輸出増・

ワールド

ヒズボラ次期指導者サフィエディン師、排除された公算

ワールド

ヒズボラ幹部、停戦努力を支持 イスラエルはレバノン

ビジネス

中国当局者、24年成長目標の達成に自信 市場は一段
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 2
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決闘」方法に「現実はこう」「想像と違う」の声
  • 3
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 4
    もう「あの頃」に戻れない? 英ウィリアム皇太子とヘ…
  • 5
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 6
    住民仰天! 冠水した道路に「まさかの大型動物」が..…
  • 7
    「11年に一度」のピークが到来中...オーロラを見るた…
  • 8
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 9
    ハマス奇襲から1年。「イランの核をまず叩け」と煽…
  • 10
    大型ハリケーン「へリーン」が破壊した小さな町...20…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティアラが織りなす「感傷的な物語」
  • 4
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 9
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 10
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中