最新記事
映画

「ニセの殺し屋」が依頼人と熱烈な恋に...「実話」を元にした映画『ヒットマン』は必見のバディムービー?

A Great New Romantic Thriller

2024年9月13日(金)11時58分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
映画『ヒットマン』の場面写真、グレン・パウエル演じるゲイリーとアドリア・アルホナ演じるマディソン

内気な大学講師のゲイリーは変身技術を駆使しておとり捜査に協力し(写真右)、夫に虐げられるマディソン(左)と出会う ©2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

<リチャード・リンクレーター監督の最新作はセクシーで小粋なムードに、変幻自在な主演グレン・パウエルの演技が光る上質なロマンチックスリラーだ──(レビュー)>

リチャード・リンクレーター監督の22作目の長編映画『ヒットマン』は、出世作になった第2作『スラッカー』(1991年)と同じく、ちょっとした哲学談議で始まる。

【関連記事】「次世代のトム・クルーズ」と話題のグレン・パウエル、大スターからの教訓は「難しそうに演じろ」?

『スラッカー』の幕開けでは、リンクレーター本人が演じる男性が地元テキサス州オースティンの街中を走るタクシーの車内で、退屈顔の運転手を相手に持論を語っていた。自分が選ばなかった選択肢はどれももう1つの現実を生み出すが、視点が固定されているせいで、それを目にすることはできない──。


その後に展開する物語は、この説を画期的な形式で探っていく。風変わりな人物が次々に登場するが、彼らをつなぐのは偶然の出会いだけだ。

一方、最新作の冒頭では、リンクレーターの「分身」的俳優(で同郷の)グレン・パウエル扮する主人公が思索を誘う。

ニューオーリンズ大学で心理学と哲学を教える彼は、自己の再創造の可能性をめぐるニーチェの著作の一節について講義中。『スラッカー』と同様、その後の物語は、自己再創造という概念を遊び心たっぷりに探求する。

作品構成は画期的とは程遠いが、『ヒットマン』はありがちながらも確実に楽しめる「ペテン師もの」になっている。

正確に言えば、人をだます才能によって、主人公が本当の自分を発見するというジャンルの映画だ(スティーブン・スピルバーグ監督作『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』がいい例だ)。

本作の元ネタは、ジャーナリストのスキップ・ホランズワースが2001年にテキサス・マンスリー誌で紹介した実話だ。リンクレーターは同じ筆者の別の記事を、犯罪コメディー『バーニー/みんなが愛した殺人者』(11年)として映画化したことがある。


主人公のゲイリー・ジョンソンは地元の大学で非常勤講師を務める一方、自身の特殊なスキルを活用した仕事をしている。地元警察のおとり捜査の一環としてプロの殺し屋を演じ、殺人依頼者の逮捕に協力しているのだ。

ゲイリーはウィッグや衣装、時には義歯も駆使して、依頼者それぞれに応じた殺し屋像を作り上げる。あるときは、映画『アメリカン・サイコ』の主人公をヒントにしたオールバックヘアの魅力的な男性。またあるときは洗練されたイギリス人。ひげ面のバイカー風に変身することもある。

依頼者との会話からは人間の闇が浮かび上がるが、ゲイリーがさまざまな変装を試すシーンはコミカルだ。同時に、彼が恐ろしくこの仕事に向いていることも示している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中