最新記事
映画

「先住民の魂」と「厳しい現実」が交差する...映画『ファンシー・ダンス』はミクロの視点からマクロな問題に切り込んだ秀作

Gladstone’s Great New Movie

2024年7月26日(金)16時20分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

newsweekjp_20240726045541.jpg

姪のロキ(右)とジャックス(左)は部族の祭り「パウワウ」を目指す APPLE TV+

『ファンシー・ダンス』は、個々の人生というミクロのレンズを通じて社会問題を考察するインディーズ映画の秀作だ。監督が高らかに宣言しなくても、観客は登場人物の選択に社会のシステムが影響しているのを感じ取ることができる。

このような静かな社会的リアリズムの作風は、『ウィンターズ・ボーン』(2010年)や『足跡はかき消して』(18年)の監督で知られるデブラ・グラニックが得意とする。


ラストダンスは希望へ

トレンブレイとアリスの簡潔な脚本は、経済的不平等、貧困と依存症の関連、里親制度に組み込まれた人種差別に触れているが、問題を具体的に名指しすることはない。

グラッドストーンは自らが主役級を演じた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が賞レースのシーズンを迎えていたときに、このやや地味な映画のために走り回っていた。

理由は簡単。『ファンシー・ダンス』はサンダンス映画祭で上映されて話題になったが、その後1年半ほど配給会社が決まらなかったのだ(ようやくアップルに拾われ、6月28日からアップルTVプラスで配信中)。

その非凡さに磨きをかけたグラッドストーンが、見事にゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得した『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の寡黙なヒロイン役よりもダークなモードでジャックスを演じている。親しみやすいが、完璧という言葉とは程遠い主人公だ。無愛想で秘密主義で、衝動的に自虐的になる。

彼女は法を犯すことで自分たちが置かれた危険について、ロキに嘘をつくこともためらわない。これらの嘘はロキを守ることが狙いの場合もある。

『ファンシー・ダンス』の登場人物に非の打ちどころのない振る舞いをする人は一人もいないが、トレンブレイは疑わしい選択をするキャラクターを決して悪く描かない。

ロキの白人の祖父母でさえ、自分たちの特権が先住民の親族のライフスタイルを危険にさらしている勢力と一体化していることに気付かず、悪役ではなく、経済的・人種的搾取の制度に巻き込まれた被害者として登場する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中