最新記事
MLB

野球の伝説タイ・カッブ、数々の悪評は真実か誤解か? 裏側を探る

Major League Error

2024年6月28日(金)18時50分
チャールズ・リアーセン(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240628033721.jpg

1921年、デトロイト・タイガースのユニフォーム姿で BETTMANN/GETTY IMAGES

出版社に送った企画書で、私はカッブが「卑劣なレジェンド」だという証拠を見つけ出すと決意表明していた。ところが過去の記事や法的文書、書簡などを調べ、カッブの家族や彼を知る人々に取材するうちに、当初の企画意図に反する事実に遭遇し続けることになった。例えばカッブがそんなにも嫌われ者だったなら、なぜシカゴ・ホワイトソックスは本拠地がシカゴ以外のチームで最も人気のある選手としてカッブにトロフィーを贈ったのか。

シカゴを拠点とする著名なスポーツライターのリング・ラードナーは、タイガースが遠征してくる試合で観客席からカッブと話ができるよう、彼の守備位置に近い右翼席のチケットを取っていた。なぜか。ラードナーにとってカッブは、友人にもなれそうだと感じさせる珍しいアスリートだったからだ。


黒人の受け入れに賛成

カッブは相手選手にスパイクの歯を向けたといわれるが、そのような証言をした選手は1人しか見つからなかった。そうした中傷に嫌気が差したカッブは、1910年にMLBに手紙を書き、選手がスパイクの歯を鋭くするのを禁止するよう提案した。

人種差別主義者だという批判については、「黒人を銃でよく殴っていた」のように根拠のないものもあった。ファクトチェックで誤りと判明した情報もある。84年の伝記によると、カッブは夜警、精肉業者、ホテルの従業員とけんかをしたことがあり、相手の3人は全て黒人だったとされていた。ところが、私が公的記録を調べると、3人とも白人だったことが分かった。

1886年に南部のジョージア州で生まれた人間が、人種差別主義者でないことなどあり得るのか、という疑問を持つ人もいるかもしれない。

しかしカッブの曽祖父は教会の牧師で、奴隷制に反対して町を追放された人物だ。祖父は、奴隷制反対を理由に南北戦争で南軍の一員として戦うことを拒んだ。教育者で州の上院議員でもあった父は、政治の場で黒人の利害を代弁し、白人の暴徒が黒人をリンチする現場に割って入ったこともあった。

カッブ自身も、1952年に米中部・南部のマイナーリーグ「テキサスリーグ」が初めて黒人選手を受け入れた際、新聞の取材にこう語っている。「渋々ではなく、心から歓迎すべきだ。黒人たちには、プロの野球選手としてプレーする権利がある。その権利がないなんて誰にも言えない」

カッブはニグロリーグの試合にもよく足を運び、ウィリー・メイズをお金を払って見たい同時代で唯一の選手だと評するなど、多くの黒人選手を称賛していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中