最新記事
MLB

野球の伝説タイ・カッブ、数々の悪評は真実か誤解か? 裏側を探る

Major League Error

2024年6月28日(金)18時50分
チャールズ・リアーセン(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240628033800.jpg

36年に史上初の野球殿堂入り EZRA O. SHAWーALLSPORT/GETTY IMAGES

カッブには神経質すぎる面があり、高みを目指さない人をすぐに軽蔑するなど欠点も多かった。だが、そもそも完璧な人間などまずいない。

ほかの選手からは、好かれることもあれば嫌われることもあった。しかし、テッド・ウィリアムズやジョー・ディマジオのような偉大なプレーヤーでさえ(時には嫉妬心から)嫌う選手がいたことは見落とすべきでないだろう。


61年に74歳で死去したときには、敬意に満ちた追悼の言葉が多く寄せられた。36年にほかの4人と共に史上初の野球殿堂入りをしたときに最多得票だったことも強調された。

負の側面を語る人など、誰もいなかった。それなのになぜ『フィールド・オブ・ドリームス』で描かれたようなイメージが定着したのか。

独り歩きした暴露記事

発端となったのは、61年に出版されたカッブの自伝のゴーストライターを務めたアル・スタンプというスポーツ記者だった。カッブはこの自伝を激しく嫌い、死の直前に出版を差し止めようとした。名誉を損なう内容ではなかったが、スタンプが捏造したエピソードや事実関係の誤りが多数含まれていたためだ(自伝は死後に出版)。

この本が物議を醸すことはなかったが、スタンプが雑誌に寄稿した記事は大きな反響を呼んだ。カッブに関する不名誉な暴露話が面白おかしく書かれていたのだ。

そのおおむね事実無根の記事によれば、カッブは大酒飲みで、銃を振りかざしながら車を乗り回し、あるときは夜中に銀行の頭取の自宅に押しかけ、銃を突き付けて5ドルの小切手の決済を差し止めようとしたという。

野球界では誰もがカッブを嫌っていたと、スタンプは記事に書いた。葬儀に参列した野球関係者は3人だけだった、とのことだった。

記事は具体性を欠いていたし、コメントは匿名のものだけだった。それに、葬儀は家族だけで行うと遺族が発表したにもかかわらず、実際には何千人もが駆け付けた。

しかし、カッブを擁護しようとしたスポーツ記者たちの努力もむなしく、記事の内容は独り歩きし始め、やがてその人物像が真実と信じ込まれるようになった。

野球界でマッチョな人種差別主義者が野放しにされていたという物語は、あまりに魅力的だった。人々はカッブをたたくことにより、「自分は人種差別主義者ではない。この男を断罪しているのだから」と言えたのだ。

私が2015年に書いた伝記『タイ・カッブ──恐ろしい美(Ty Cobb: A Terrible Beauty)』は、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに入り、書評でも好意的な評価を得ている。少しずつでも、誤解を解くことができているのだろうか。

いや、カッブが生涯打率1位の座から陥落したというニュースが喝采を浴びたことを考えると、名誉回復はまだ十分でなさそうだ。

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ロシアがキーウ攻撃1週間停止に同意」、

ワールド

米・メキシコ首脳が電話会談、通商など協議 キューバ

ワールド

米国防長官、2月のNATO会議欠席の見通し=情報筋

ビジネス

米ブラックストーン、10―12月期は増益 M&A活
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中