「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界で愛される「これだけの理由」

WHY ANIME IS LOVED THROUGHOUT THE WORLD

2024年5月1日(水)14時10分
数土直志(すど・ただし、アニメーションジャーナリスト)

世界同時配信のインパクト

しかしカルチャーサイドだけでなくビジネスサイドでも、過去10年で状況は大きく変わっている。今や日本企業は新しい市場は海外にあると認識して、各国に直接進出し、自ら利益を上げる構造を築きつつある。

先頭に立ったのはソニーグループの成功だ。ソニーミュージックのアニメ事業子会社であるアニプレックスと米ソニー・ピクチャーズエンタテインメントは21年、日本アニメ配信サイトのクランチロールを、当時約1300億円で傘下に置いた。グループのアニメ事業売上高は今や世界で3000億円規模にもなり、グループの重要な事業だ。

もう1つビジネスが広がったきっかけは配信だ。ネットフリックスやクランチロールといったサイトが日本とほぼ同時にアニメを海外配信することで、作品の人気も情報も世界同時に広がる。

配信時代を代表するのが『進撃の巨人』だ。13年のアニメ化のタイミングは、アメリカと中国で日本とほぼ同時に正規配信が始まった12~13年だった。これによりあらゆる国でほぼ同時に人気が爆発し、作中に登場する調査兵団のコスプレも世界のイベントに一斉に出現した。世界のアニメファンが一体化した瞬間だ。

アニメを関連商品や音楽、イベントにつなげる日本型のメディアミックスも世界に広がり始めている。23年に世界的なヒットになったYOASOBIの「アイドル」も、アニメ『【推しの子】』のテーマソングだ。アニメでは、ビジネスの仕組みでも日本式が世界に広がっている。

そんな時代、日本アニメは今後どうなるのだろうか。確かなのは、アニメはこの先も世界的にかなりの成長ジャンルだということだ。そこに大変な数のファンがいるからだ。

ただそのファンのほとんどは、今や日本の外にいる。いま海外で日本アニメのスタイルを取り入れた作品が次々に誕生し、人気を獲得している。受け手だけでなく、作り手のグローバル化も急激に進んでいる。

今後日本以外で生まれた作品が「ANIME」として世界に広がっていくはずだ。その時、日本は何をもって日本独自のアニメを打ち出せるか問われるだろう。

答えの1つは『君たちはどう生きるか』にある。この作品が世界で圧倒的な評価を得ている理由には、2Dの手描きの素晴らしさ、ハリウッド的な善悪二元論とは異なる複雑なストーリーがある。世界が求める日本らしさの鍵がここにあるのではないだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民

ビジネス

アングル:「ハリー・ポッター」を見いだした編集者に

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中