最新記事
日本社会

NHK大河、視聴率1位の主人公は? データが語る日本人の歴史偏愛っぷり

2023年4月3日(月)19時10分
本川 裕(統計探偵/統計データ分析家) *PRESIDENT Onlineからの転載

都道府県の老舗企業の分布図に見る日本人の歴史好き

そこで、各都道府県の老舗企業の分布図を作成してみた(図表3参照)。古い資料も使っているので、廃業や合併などで現在もこうした老舗企業が活躍しているとは限らないが、多くはなお存続していると考えられる。

reuter_20230403_173928.jpg

図版=筆者作成

日本企業の特徴のひとつは老舗が多い点にある。創業ないし設立から100年以上経っている場合を老舗企業とすると、それは日本に約2万社あり、企業全体の1.6%にのぼっている(2009年、帝国データバンク)。そのうち200年以上経っている江戸時代以来の老舗企業は938社、300年以上の老舗企業は435社とだんだん少なくなるが、それでもけっこうな数にのぼる。

日本最古であるばかりでなく世界最古の老舗企業とされるのは、大阪の建設業「金剛組」であり、何と創業は大化改新以前の元号もない578年であり、現在までに1445年も続いている。江戸時代までの金剛組は四天王寺のお抱え宮大工としてとして毎年一定の禄(ろく)を得ていたが、明治維新以後の廃仏毀釈(きしゃく)により、四天王寺が寺領を失い、戦後には、金剛組は需要の少なくなった寺社建築ばかりでなく、マンション、オフィスビルなど一般建築も手がけるようになった。金剛組もバブル崩壊の影響を受け、他のゼネコンの支援を受け、債務を切り離して従業員や宮大工を新会社に引き継ぐかたちで存続を図ったという。

日本各地の老舗企業の業種を見ると、最古の老舗企業である金剛組のような建設業はめずらしく、旅館・ホテルや百貨店に加え、清酒、菓子、医薬品、水産練製品のような製造業、あるいは生鮮魚介卸、紙卸といった商家が多い。

変わったところでは、島根の「たなべたたらの里」のようにもと元のたたら製鉄の企業が、時代の変遷で商業などに長らく業種替えしていたが、近年、祖業を復活させ、ひとびとが歴史的遺産を体験したいというニーズに応えているような例もある。

なお、県別に記載した老舗企業は、地元で創業、継業しているケースが大半であるが、ようかんの「虎屋」のようにもともとは京都で御所御用菓子屋の地位を確立していたのが、御所の東京遷都にともない東京に本拠を移したというような例もある。

また、1566年に滋賀で創業し蚊帳などの繊維製品を全国に行商していた近江商人の西川甚五郎商店が、江戸に進出して現在の西川産業(東京西川)、京都に出店して現在の京都西川、大阪に出店して現在の西川リビングという企業として活動するようになり、全体として「ふとんの西川」グループを形成しているといったケースもある。分布図では祖業の地でなお継業している西川テックスのみを掲げた。

図表3において赤字で記した老舗企業は、江戸時代初期にあたる17世紀以前に創業した企業である。日本列島の多くの身近な地域で非常に古い老舗企業が息づいている。われわれは歴史とともに生きていると言ってもよいのである。

本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ウクライナ和平協議、忘れられたロシア政治

ビジネス

ステランティス、28年までに仏生産台数を11%削減

ワールド

香港、火災調査で独立委設置へ 修繕工事監督も対象

ビジネス

米政権、チップレーザー新興企業xLightに最大1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中