NHK大河、視聴率1位の主人公は? データが語る日本人の歴史偏愛っぷり
若者の中にはテレビを持たない層も増えており、そうした点も踏まえるとこうした視聴率の推移からは、国民の歴史好きに応える形で放映されているNHK大河ドラマへの関心はなお高いと結論づけられよう。むしろ、大河ドラマが国民のテレビ離れを抑止する最後の手段となっているとさえいえるかもしれない。
図表2には初回視聴率の推移も掲げ、初回と期間平均との視聴率の差を「期待はずれ度」として表示した。
これを見ると2006年の「功名が辻」や「篤姫」のように事前期待がそれほど高くなかったのに実際は堅調な視聴率を維持し、初回より期間平均の方が高視聴率になったケースもあるが、ほとんどは多かれ少なかれ期待はずれとなっている。2010年以降では2018年の「西郷どん」は期待があまり高くなかったせいか期待はずれ度は最低であり、逆に最大は「いだてん~東京オリムピック噺~」だった。
「どうする家康」の初回視聴率は15.4%と低かったが、今後はどうなるだろうか。今のところ、期待を大きく裏切る視聴率の上昇は見込めなさそうである。
生きている歴史:日本各地で活動を続ける老舗企業
日本人の歴史好きは、実は、単なる趣味的な嗜好ではなく、そこには運命的な背景が隠れている。というのも、日本人にとって歴史は単なる過去の歴史ではなく、現在の生活の一部であるという側面が、海外の諸国民と比べて大きいからである。
聖徳太子にせよ、鎌倉幕府にせよ、天台密教にせよ、徳川家康にせよ、西郷隆盛にせよ、何らか現代に生きるわれわれの一部分を思い起こさせるのである。
植物学者・生態史家の中尾佐助は建築様式や食生活を例に挙げて日本が古代の習慣や文化を今に伝えている稀有な国であると述べている。
建築様式については、雨が多くじめじめした気候の日本や中国南部では高床式建築が合理的である。中国の江南では華北文化の影響で土間を基本とする建築に変わってしまったのに対して、日本ではもともと土間だった寺院までむしろ高床式に変化した。
また、食生活については、肉食を禁ずる仏教が優勢となった東アジア文明圏の中で古代から引き継いで基本的には肉食に復帰することなく、それを前提に肉の代わりとなるうま味を工夫し続けて、独自な日本料理を創出した点でも大陸諸国とは大きく異なっている。
みそ・しょうゆ、すし、だしなどの和食要素を生み出すとともに、その延長線上で海外から受け入れたラーメンやカレーなども新和食としてつくりかえ、それらが世界でも評判となっているのである。
島国であったため大陸国のように支配民族の大交代が起きなかった点から生じたこうした日本の歴史的独自性について中尾は次のようにまとめている。
<日本歴史では、社会も政治も、生活もいろいろ変化変遷してきた。しかしその変わりは全部連続性の上に構築されてきたという、世界歴史の上に、たぶん唯一の歴史になっているといってよいだろう。それは現在の社会に何をもたらしたのか。たぶんそれは古代の遺風、遺物を消し去ることなく、細ぼそとして、あるいは変化しながら、日本の国内のどこかに残してきたという効果を生じていると考えられる>(中尾佐助『現代文明ふたつの源流 照葉樹林文化・硬葉樹林文化』朝日選書、1978年、p.226~227)。
こうした点は、世界の中でめずらしいことに人間が手を加える前の原始林を「鎮守の森」として残してきているところにもあらわれているが、古くから続いてきた日本各地の老舗企業の存在にもじかに感じ取ることができる。