数字に驚異的に強いインドと日本の子供たち、放課後にしていたこととは?
1万時間訓練すれば誰でも数字に強くなる?
しかし、計算に長けているからといって、必ずしも才能に恵まれている、ずば抜けて知能が高い、とは限らない。
たとえば、シャクンタラ・デヴィ(1929~2013年)。彼女は2つの13桁の数字の掛け算を28秒でこなして、ギネスブックに掲載された。そこで、知能検査のエキスパートである心理学者のアーサー・ジェンセンが厳密に調べたところ、デヴィは平均的な知能の持ち主だとわかった。
実地知能検査を考案したアルフレッド・ビネー(1857~1911年)は、2人のプロの劇場計算者──舞台上で計算能力を披露することで生計を立てていた人たち──の成績を、パリのボンマルシェ百貨店のレジ係たちの成績と比較した。
レジ係はそれぞれ(機械式計算機が使えなかった1890年代に)14年間の計算経験を積んでいたが、早くから数学に特殊な才能を発揮していたわけではないようだ。それでも結局、レジ係たちのほうが好成績を収めた。
実は、ずば抜けた数的能力を持ちながら、一般認知能力はごく普通、もしくは極めて低かったとされる事例は数多く存在する。(略)
こうした事例が示しているのは、計画的に訓練すれば──おそらく、専門知識を得るために推奨される「1万時間」以上取り組めば──人間は数的課題に驚くほど強くなれることだ。また、脳内の数的メカニズムが、ほかの認知メカニズムとは別個のものであることも示唆している。数的事実の記憶システムでさえ、それ専用のもののように思われる。
たとえば、ドイツの計算の達人リュディガー・ガムは口頭で提示された数字を正確に11桁繰り返すことができたが、調査の対照群も私たちの大半も、7桁ほどしか正確には繰り返せない。その数字を逆の順序で繰り返すよう求められると、ガムはさらに素晴らしい力を発揮した。逆からは12桁正確に繰り返すことができたのだ。一般の人は5~6桁しかさかのぼれない。
ところが、文字で同じことをするよう求められると、ガムの成績はごく普通だった。そして、すでに話したように、驚異的な計算能力を持つ人たちの中には、数以外の情報の記憶力は極めて低い人たちもいた。こうした例から、数に関しては少なくとも部分的には、別個の認知システムがあることがうかがえる。
実は、こうしたスキルは、一度身につくと無意識のうちに展開され、数を数えている人は、数えているという自覚がない。それでも私たち科学者は、彼らが数えていることを知っている。理由は、彼らが自覚して取り組む課題に、無意識に数えていることが測定可能な影響を及ぼすからだ。(略)