最新記事

映画

監督が明かす『ラーゲリより愛を込めて』制作秘話 シベリア抑留者たちの息遣いを探して

ORDEAL IN SIBERIA

2022年12月8日(木)19時15分
瀬々敬久(映画監督)
二宮和也

主演の二宮和也 ©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子

<ソ連の写真は役に立たなかった、収容所によって厳しさは千差万別だった、山本幡男さんの妻モジミさんは「チャーミングなお母さん」に変更した......。12月9日公開作の瀬々敬久監督が特別寄稿>

原作の『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん著)をプロデューサーから手渡されたのが2019年の1月頃だった。第2次大戦後のシベリアの強制労働収容所が舞台となる映画を作ることになった。

1960年生まれの僕にとって、その記憶が子供の頃にはまだあった。毎年、夏になれば戦没者の遺骨収集が話題になり、特にシベリアの収容所で亡くなった人たちの遺骨については毎年のようにニュースに取り上げられていた。

二葉百合子の歌う「岸壁の母」がヒットしたのは1972年、僕は12歳。テレビから流れてくるこの歌をよく覚えている。

■【写真】『ラーゲリより愛を込めて』二宮和也演じるシベリア抑留者・山本幡男/映画の予告編映像

考えてみたら、映画の主人公である山本幡男(はたお)さんの仲間たちが最後に戻ってきた引き揚げ船、興安丸が舞鶴に到着したのは1956年、僕が生まれるわずか4年前のことだ。

戦後は決して終わってなんかなく、ここまで長く戦争の苦しみを被っていた人々がいた事実に驚いた。

magSR20221208ordealinsiberia-2.jpg

瀬々敬久監督 ©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子

そうして脚本づくりに入り、映画制作の具体的な準備が始まる。映画というものは「絵にしてなんぼ」で、今回は写真資料などを参考に収容所を作ったり、労働を再現したりしなければならない。

ところがその資料がほとんどなかった。ソ連から出されている写真はどれも清潔で快適な収容所の様子が映ったもの。先方に都合の良い写真しかない。

よって僕らが参考にしたのは、帰還した方々が記憶で描いた絵や文章だった。特に山下静夫さんの画文集『シベリア抑留1450日』は繊細で写実的なタッチで描かれたペン画で、「記憶のフィルムを再現する」と副題にあるように、あらゆる面で正確であり、なおかつ、その場面の臨場感が素晴らしかった。

助監督らの演出部は生き残っておられる抑留者の方々に取材に行った。それらのレポートを読んで感じたのは収容所によって労働や居住環境、その厳しさは千差万別ということだった。

収容所から出て、町で買い物をして戻ってくることが許される人もいれば、地獄の思いをした人もいる。そして時代の流れの中でも大きく変遷する。一概にシベリア抑留を一般化できないということに気付かされた。

そこに収容された人々もさまざまである。軍人だけでなく一般人もいた。樺太近辺で終戦後も漁をし続けていた漁師たちは、領海侵犯でソ連に捕らえられる。スパイの罪状で収容所送り、それらの例も多く見られた。映画の中でも主要人物として描かれる。

もちろん、根っからの軍人のほうが多い。女性だけの収容者のチームが歩いて移送されていくのを見たと言う証言もあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のスペースX、xAIを買収 宇宙・AI事業

ワールド

ロシア・ウクライナ協議順調とトランプ氏、近く「良い

ワールド

米、イランとの協議継続中=トランプ氏

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金価格下落で安全資産買い 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中