「タイパ」とは何か?──ドラマや映画を倍速再生する人が知っておくべきこと
「タイパ」時代の学びとは
しかし、それが推奨されていないのは、「タイパ」や「コスパ」を重視する態度が、勉強や動画など特定の対象を超えて、あらゆる局面に影響を与えかねないと危惧されているからだ。その危惧を突き詰めれば、次のようなネガティブなシナリオになる。
時間の短縮に慣れる人が増えれば、長文は読まれなくなるし、映画館にも耐えられない。総じて、集中力の持続が求められるコンテンツには人が集まらない。
言葉やイメージの背後にある「他者の生」を想像することが困難になり、世界の複雑性が失われる。世界は単純だと思わせてくれるような言葉やイメージが「いいね」を集め、拡散される。
その先には「何が言いたいのかわからない」「大事なことだけで良い」と言われれば、それで終わりという、やや殺伐とした単純な世界が待っている。部分的にはすでにこういう世界になっている。しかし、このシナリオを回避できるものなら回避したい。
そのために必要なのは、時短コンテンツや「タイパ」「コスパ」を危険視することでも、より効率の良い情報処理能力や技術革新でもない。必要なのは、効率を求める対象や領域を自覚することだ。
つまり「Aという作業では効率を重視するが、Bはゆっくりやる」という使い分けである。実際、あらゆる局面で効率を求めるという人は稀ではないか。では、どうすれば「効率を求める対象や領域を自覚」しやすくなるのだろう?
手がかりは「地図」にあると思う。処理した情報をマッピングするための「想像力の地図」である。実際に手書きのノートを用意してもよいし、マインドマップのアプリを使ってもよい。「地図」を手にすれば、新しい探索先や、「地図」の外側への関心も湧く。
「タイパ」「コスパ」を追求したいという欲求に問題があるわけではない。ただ、それで余らせた時間を「それぞれの地図」作りに活かしてみてはどうだろうか。
[注]
(*1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/40/4/40_40062/_pdf
[筆者]
山本昭宏
神戸市外国語大学総合文化コース准教授。1984年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門はメディア文化史・歴史社会学。著書に『核エネルギー言説の戦後史1945~1960──「被爆の記憶」と「原子力の夢」』(人文書院)、『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス)、『原子力の精神史──〈核〉と日本の現在地』(集英社新書)、『戦後民主主義──現代日本を創った思想と文化』(中公新書)などがある。