最新記事

日本社会

「タイパ」とは何か?──ドラマや映画を倍速再生する人が知っておくべきこと

2022年6月14日(火)07時52分
山本昭宏(神戸市外国語大学総合文化コース准教授)

「タイパ」時代の学びとは

しかし、それが推奨されていないのは、「タイパ」や「コスパ」を重視する態度が、勉強や動画など特定の対象を超えて、あらゆる局面に影響を与えかねないと危惧されているからだ。その危惧を突き詰めれば、次のようなネガティブなシナリオになる。

時間の短縮に慣れる人が増えれば、長文は読まれなくなるし、映画館にも耐えられない。総じて、集中力の持続が求められるコンテンツには人が集まらない。

言葉やイメージの背後にある「他者の生」を想像することが困難になり、世界の複雑性が失われる。世界は単純だと思わせてくれるような言葉やイメージが「いいね」を集め、拡散される。

その先には「何が言いたいのかわからない」「大事なことだけで良い」と言われれば、それで終わりという、やや殺伐とした単純な世界が待っている。部分的にはすでにこういう世界になっている。しかし、このシナリオを回避できるものなら回避したい。

そのために必要なのは、時短コンテンツや「タイパ」「コスパ」を危険視することでも、より効率の良い情報処理能力や技術革新でもない。必要なのは、効率を求める対象や領域を自覚することだ。

つまり「Aという作業では効率を重視するが、Bはゆっくりやる」という使い分けである。実際、あらゆる局面で効率を求めるという人は稀ではないか。では、どうすれば「効率を求める対象や領域を自覚」しやすくなるのだろう?

手がかりは「地図」にあると思う。処理した情報をマッピングするための「想像力の地図」である。実際に手書きのノートを用意してもよいし、マインドマップのアプリを使ってもよい。「地図」を手にすれば、新しい探索先や、「地図」の外側への関心も湧く。

「タイパ」「コスパ」を追求したいという欲求に問題があるわけではない。ただ、それで余らせた時間を「それぞれの地図」作りに活かしてみてはどうだろうか。

[注]
(*1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjet/40/4/40_40062/_pdf

[筆者]
山本昭宏
神戸市外国語大学総合文化コース准教授。1984年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。専門はメディア文化史・歴史社会学。著書に『核エネルギー言説の戦後史1945~1960──「被爆の記憶」と「原子力の夢」』(人文書院)、『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス)、『原子力の精神史──〈核〉と日本の現在地』(集英社新書)、『戦後民主主義──現代日本を創った思想と文化』(中公新書)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独VW、28年末までにコスト20%削減を計画=独誌

ビジネス

高市首相と会談、植田日銀総裁「一般的な経済・金融情

ビジネス

地盤ネットHD、井村氏が代表の会社と投資機能活用な

ワールド

タイ経済成長率、25年2.4% 今年予想1.5─2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中