「タイパ」とは何か?──ドラマや映画を倍速再生する人が知っておくべきこと
Yuzuru Gima-iStock.
<時間短縮を求めることは新しい現象ではない。しかし、それによって削ぎ落とされてしまうものを自覚する態度と使い分けは必要。そのためにはどうしたらいいのか?>
ドラマや映画を倍速再生で視聴したことはあるだろうか? 筆者はある。
この倍速再生が話題になったのは、『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史、光文社新書、2022年)が発端で、「タイパ」という言葉で議論されている。
ここで問題になっているのは「タイパ」を求める現代人の心性だ。タイパとは「タイム・パフォーマンス」の略語で、時間の効率を求める欲求や態度を指す。つまり、「コスパ(コスト・パフォーマンス)」の時間版である。
「タイパ」を求める背景には、Twitter以後のTikTokやインスタなどが、短時間、短文のフォーマットを定着させたこと。倍速の速度を選べるようになったことが挙げられる。最近、YouTubeでも長めのコンテンツに「一番再生されている箇所」が表示されるようになった。
このように読者や視聴者の嗜好に合わせて、時間を自在に短縮したりスキップしたりできる時短コンテンツは、いまや日常的なものだ。実際、ライフハックの情報をすぐに知りたいときや、好きな曲のサビだけを聴きたいとき、またはつまらないコンテンツの倍速やスキップは誰でもすでに経験があるのではないだろうか。
にもかかわらず、「タイパ」「コスパ」重視の姿勢は否定的に捉えられ、「最近の若者は......」と、若年層と結びつけて「現代的特徴」だとまで言われる。しかし、これは本当に新しい現象なのだろうか?
1922年に創刊されたアメリカの月刊誌『リーダーズ・ダイジェスト』という雑誌がある。これは新刊書や注目記事の抜粋を編集したもので、これを読んでおけば話題についていける、という理由から大衆的人気を獲得した(日本版は1986年に廃刊)。
新聞の論壇時評や文芸時評も、「今月はこれだけを読んでおけばよい」という使い方や、「読まなくても内容がわかる」という使い方をする人が多数を占めるはずだ。めぼしい情報をピックアップするための「タイパ」のコンテンツだといえる。そもそも読書だって、昔から「速読術」の需要があるのは周知のとおりだ。
このように、現代の「タイパ」や「コスパ」重視の姿勢は、以前から存在していた欲望に技術が拍車をかけたものといえる。したがって、これまでどおり共存できるはず。それが筆者の見通しである。
実際、学習のための動画ならば、1.5倍から2倍程度の速度であれば、学習効果を妨げないという結果を示唆する論文もある(*1)。そうであれば、効率よく時間を使うことは、むしろ推奨されても良いのではないだろうか。