最新記事

日本社会

「タイパ」とは何か?──ドラマや映画を倍速再生する人が知っておくべきこと

2022年6月14日(火)07時52分
山本昭宏(神戸市外国語大学総合文化コース准教授)
リモコン

Yuzuru Gima-iStock.

<時間短縮を求めることは新しい現象ではない。しかし、それによって削ぎ落とされてしまうものを自覚する態度と使い分けは必要。そのためにはどうしたらいいのか?>

ドラマや映画を倍速再生で視聴したことはあるだろうか? 筆者はある。

この倍速再生が話題になったのは、『映画を早送りで観る人たち』(稲田豊史、光文社新書、2022年)が発端で、「タイパ」という言葉で議論されている。

ここで問題になっているのは「タイパ」を求める現代人の心性だ。タイパとは「タイム・パフォーマンス」の略語で、時間の効率を求める欲求や態度を指す。つまり、「コスパ(コスト・パフォーマンス)」の時間版である。

「タイパ」を求める背景には、Twitter以後のTikTokやインスタなどが、短時間、短文のフォーマットを定着させたこと。倍速の速度を選べるようになったことが挙げられる。最近、YouTubeでも長めのコンテンツに「一番再生されている箇所」が表示されるようになった。

このように読者や視聴者の嗜好に合わせて、時間を自在に短縮したりスキップしたりできる時短コンテンツは、いまや日常的なものだ。実際、ライフハックの情報をすぐに知りたいときや、好きな曲のサビだけを聴きたいとき、またはつまらないコンテンツの倍速やスキップは誰でもすでに経験があるのではないだろうか。

にもかかわらず、「タイパ」「コスパ」重視の姿勢は否定的に捉えられ、「最近の若者は......」と、若年層と結びつけて「現代的特徴」だとまで言われる。しかし、これは本当に新しい現象なのだろうか?

1922年に創刊されたアメリカの月刊誌『リーダーズ・ダイジェスト』という雑誌がある。これは新刊書や注目記事の抜粋を編集したもので、これを読んでおけば話題についていける、という理由から大衆的人気を獲得した(日本版は1986年に廃刊)。

新聞の論壇時評や文芸時評も、「今月はこれだけを読んでおけばよい」という使い方や、「読まなくても内容がわかる」という使い方をする人が多数を占めるはずだ。めぼしい情報をピックアップするための「タイパ」のコンテンツだといえる。そもそも読書だって、昔から「速読術」の需要があるのは周知のとおりだ。

このように、現代の「タイパ」や「コスパ」重視の姿勢は、以前から存在していた欲望に技術が拍車をかけたものといえる。したがって、これまでどおり共存できるはず。それが筆者の見通しである。

実際、学習のための動画ならば、1.5倍から2倍程度の速度であれば、学習効果を妨げないという結果を示唆する論文もある(*1)。そうであれば、効率よく時間を使うことは、むしろ推奨されても良いのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石油大手2社への制裁でロシアは既に減収=米財務省

ビジネス

中国COMAC、ドバイ航空ショーでC919を展示飛

ワールド

カナダ議会、カーニー政権初の予算案審議入りへ 動議

ワールド

過度な依存はリスクと小野田経済安保相、中国の渡航自
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中