最新記事

映画

リベラル派を「自虐」的に描くコメディー映画、楽しめるのはリベラル派だけ

Jon Stewart Is Out of Date

2021年9月22日(水)18時02分
サム・アダムズ
『スイング・ステート』

©︎2021 FOCUS FEATURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

<アメリカの政治システムを皮肉ったコメディー映画『スイング・ステート』が、描き切れなかったものとは?>

2015年まで16年間、テレビの政治風刺番組『デイリー・ショー』の司会者を務めたジョン・スチュワートは、少なくとも一部のアメリカ人にとって道徳上の良心を体現する存在だった。

スチュワートは特定の政党の代弁者になることなく、本音と建前を使い分けたり政治的プロパガンダをまき散らしたりする人間を厳しく批判した。その一方で、政治的立場を問わず本音で語る(ように見える)論客たちに、理性的な中道派として自らを印象付ける場を提供していた。

いま思えば、番組の司会を退いたタイミングは絶妙だった。それから5年もたたずに、スチュワートが身を置こうとした政治論議の「非武装中立地帯」は無残に縮小し、右派の劣悪な言論が絶えず垂れ流されるようになった。

そのスチュワートが『デイリー・ショー』を降板した後、最初に製作した映画が『スイング・ステート』だ。

ヒラリーがトランプに負けた翌日......

16年の米大統領選で民主党のヒラリー・クリントンが共和党のドナルド・トランプに敗れた翌日、主人公である民主党の選挙参謀ゲイリー・ジマー(スティーブ・カレル)は、絶望的な気分で目を覚ました。選挙参謀としての自分のキャリアはもうおしまいだと感じていたのだ。

そんなとき、自分のキャリアと民主党の未来を救うかもしれないものと遭遇する。インターネットで、ある動画が反響を呼んでいた。ウィスコンシン州のディアラケン町(実在する町ではない)の住民集会で退役軍人が不法移民の権利を熱く訴えているのだ。

都会のエリートではなく、農村部の元軍人がリベラルな理念を語っていた。その退役軍人、ジャック・ヘイスティングス大佐(クリス・クーパー)は、民主党の支持基盤を拡大するために理想的な候補者に思えた。

そこでゲイリーは大佐に町長選への出馬を要請し、WiFiも通じない飲み屋の上の一室に寝泊まりしながら選挙戦を指揮することになった。

その後、共和党が現職町長の陣営に、トランプの選挙参謀を務めたフェイス・ブルースター(ローズ・バーン)を送り込む。こうして小さな田舎町を舞台に、両党が莫大な資金をつぎ込んで対立候補を攻撃するコマーシャルを流し、泥仕合が始まる──。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中