日本で「食えている画家」は30~50人だけ 完売画家が考える芸術界の問題点

2021年9月2日(木)06時50分
中島健太(洋画家)

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撮影:河内 彩

高校時代まで芸術とは無縁だった

僕は大学3年生のとき、21歳でプロの画家となり、15年以上の画家としてのキャリアの中で約700点の作品を生み出してきました。現在、僕のアトリエに残る作品はゼロです。いつからか「完売画家」と呼ばれるようになりました。

なぜ、僕はプロ画家になれたのか。小さい頃から芸術の素養があったのか。

いえ、まったくありませんでした。

そもそも僕は体育会系の人間で、中学時代はバスケットボール、高校時代はアメリカンフットボール部のキャプテンでした。ただ、スポーツで生きていくほどの覚悟もなく、将来を考えたとき、自由な雰囲気をまとう高校の美術の先生を見て、なんとなく「いいな」と思って、美術教師を目指したのがきっかけでした。

1年浪人をして武蔵野美術大学に入ったものの、大学1年生のときに父が他界。美大の授業料は高額です。卒業するまで払い続けられる見通しがまったく立たなくなり、一刻も早く金を稼ぎたいと思いました。そのため、教師の道をやめてプロの画家を目指すことにしたのです。しかし、もちろん一筋縄ではいきませんでした。

じつは大学では、プロの画家になる方法を教えてくれません。そのため、公募展に出すなど試行錯誤し、大学3年生のときに、はじめて自分の絵を売ることができました。プロデビューを果たせたのです。

既述したように、以来15年、700枚の絵を売り、プロ画家として生きてきました。

言い換えると、僕の絵を買ってくださった700回のご縁があったから、いま僕はこうして画家を続けられている。1枚1枚の絵と一人ひとりのお客さんとのご縁、その積み重ねによって、いまの自分があります。それらのご縁には感謝しかありません。

本書では、「絵描きが食えない」と言われる中、僕がどうやってプロの絵描きとして絵を売り、自分の価値を上げ、生計を立ててきたかについても綴っています。

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「呼吸」P25号、2018年

好きな絵が1点あれば、「芸術がわかった」と胸を張っていい

画家としていろいろな方にお会いすると、「私、芸術とかアートって、全然わからないんです」と前置きする人が必ずいます。でも、その一言は言わなくて大丈夫です。芸術は難しく考える必要はありません。

芸術を完全に理解している人は、そもそもいません。僕も完全に理解しているとは、とうてい言えません。印象派について何度も習ったけれど、すぐに忘れてしまいます。細かなことは、知らなくて大丈夫です。

むしろ、自分の好きな作品が1点でもあればいい。そして、その作品のどこが好きかを言えれば、なおいいと思います。色使いが好き、構図が好き、コンセプトが好き......、なんでもいい。

「好きな作品はこれ!」と言えて、その理由が言えれば、「芸術がわかる」ということです。

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