最新記事

メディア

「一番見るのはヒカキン」と話す盲学校の生徒たち YouTubeやゲームが大好きな彼らはどうやって「見る」のか

2021年7月9日(金)19時34分
Screenless Media Lab. *PRESIDENT Onlineからの転載

寺山修司が驚嘆したのと同じように、生徒たちがわれわれと異なる感覚器を使って世界を認識しているのであれば、感性的にもわれわれと違っており、そのことに新鮮な驚きを覚えるのではないかと期待していた。

しかし、それは誤った期待だった。

彼らの情報空間は健常者と大きく変わらない

取材を通じて思い知らされたのは、「われわれが『感性的な表現の豊かさ』と勝手に思っていたものは、実はただの情報格差に過ぎなかった」という事実である。

40年前、視覚障害者の子どもたちは、健常者との情報格差を彼ら独自の表現で補っていた。それをわれわれは「感性の違い、豊かさ」と思い込んでいた。

ところが2010年代に入り、スマホや点字端末のような新しいデジタルツールを用いて、テキストを音声や点字に自在に変換できるようになったことで、視覚障害者が取得できる情報量は、従来の制限を越えて飛躍的に広がった。

そうやって豊かな情報を得られるようになったとたん、彼らの中の情報空間はわれわれと大きくは変わらないものになった。

われわれはこの取材で改めて、技術が情報格差をどのように埋めようとしているのか、それにより人間の感性にどのような変化が生じているのかを、まざまざと知ることになった。

情報過多だからといって単純化できない

冒頭で触れたように、現代社会では「情報が視覚ばかりに偏るようになっている」「SNSで情報過多になっている」とされ、識者がそれを問題視している。しかし情報増加が意味すること、それにより社会にどんな変化が起きつつあるかについては、単純化された議論で語り尽くすことはできない。

身体障害者に対して、「機能が制限されているがゆえに生まれる感情の豊かさ」というような、勝手なポジティブなイメージや幻想を抱くのも、健常者の側の傲慢なのだ。

われわれはしょせん、自分が受け取っている情報に基づいて構築された情報環境の虜である。その点では健常者も視覚障害者も変わりはなく、違いがあるとすれば、それは情報の「量」だけなのだ。

情報こそが私たちの内的世界を作っている。今回の盲学校への取材は、その事実をありありと教えられた出来事だった。

最後に、本稿の執筆にあたっては、東京都立文京盲学校の生徒、教職員の方々に伺ったインタビューから多くの示唆を得た。関係者に厚く御礼申し上げたい。

Screenless Media Lab.

音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的として2019年3月に設立。情報の伝達を単に「知らせる」こととは捉えず、情報の受け手が「自ら考え、行動する」契機になることが重要であると考え、データに基づく情報環境の分析と発信を行っている。所長は政治社会学者の堀内進之介。なお、連載「アフター・プラットフォーム」は、リサーチフェローの塚越健司、テクニカルフェローの吉岡直樹の2人を中心に執筆している。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中