「3分過ぎても歌が始まらない!」 あなたは『プログレ』を知っていますか?
ともかく私は、こうしてプログレに出会ってしまった。そして実はこの文章の中にプログレの特徴、聴き方・作法や、時代の空気感が表れていると思うのだ。
プログレッシヴ・ロックの「5原則」
プログレとは何か、簡潔に説明すると以下のようになる。
「プログレッシヴ・ロックとは、1960年代末イギリスで生まれ1970年代に世界中でブームとなったロック・ミュージックの一ジャンルを指す」
その特徴としては、
1.それまでのロックになかった進取で前衛的(Progressive)な思想、手法、スタイルを持つロックを指す。一つのコンセプトに基づく作品のテーマは、収録曲はもとよりタイトルワーク、ジャケットデザイン、ステージ演出などによって表現される。
2.アルバム中心主義であること。アルバムのテーマ曲である10分から20分ほどの長大な作品を核とした構成で、メインとなるテーマを繰り返したり組曲形式をとることが多い。結果、アルバムの最後で、または中核となる作品の最後で主題のメロディが再現されることになる。
3.作品のテーマ(歌詞がある場合、詩の内容)は、人間の根源に迫る哲学的・宗教的なもの、古典的・幻想的・SF的なもの、現代社会を批判したり皮肉ったものなど多岐にわたり、ストレートなラブソングは少ない。
4.音楽的には、クラシック、ジャズ、民族音楽、現代音楽などの影響を受け、そのスタイルはさまざまである。4ビート、8ビートのシンプルなロックナンバーもあるが、3拍子、変拍子、転調を取り入れた複雑な曲も多い。ソウル、R&B、ファンクなど黒人音楽の要素は少ない。
5.ボーカル、エレクトリックギター、ベース、ドラムス、キーボードという一般的なロックバンドの編成が多いが、特にキーボードにおいてはメロトロン、モーグ・シンセサイザーといった当時の最先端の機材の導入に熱心で、フルートやサックス、バイオリンといった、伝統的なロックバンドではあまり使用されない楽器も目立つ。インストゥルメンタルのみ、ほぼインストゥルメンタルというバンドや作品も多い。
プログレの定義と特徴は大体この5つに集約できると思う。私はこれを「プログレ5原則」と呼びたい。
『クリムゾン・キングの宮殿』の衝撃
プログレとして認められている最初の作品は何かといえば、キング・クリムゾンのデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿』("In The Court Of The Crimson King" 1969年10月10日英本国発売、以下同)というのが定説である。
無名の新人バンドのデビュー作があのビートルズの実質的最終作『アビイ・ロード』("Abbey Road" 1969年9月26日発売)をヒットチャート1位から蹴落とし、チャートの頂点に立った――という伝説は事実としては誤りである。なぜなら『アビイ・ロード』は英米で最高位1位だが『クリムゾン・キングの宮殿』は最高位全英5位、全米28位であるからだ。
しかしこのアルバムは、ポピュラー・ミュージックの王者にして1960年代の音楽の牽引者だったビートルズ後、間もなく始まる1970年代の新たなロックの道を切り開いた記念碑的な作品であることは、世界中の音楽ファンから認められている。
キング・クリムゾンと『クリムゾン・キングの宮殿』の魅力については『1970年代のプログレ 5大バンドの素晴らしき世界』中で詳述するが、私自身も、アナログ・レコードA面1曲目の「21世紀のスキッツォイド・マン」の衝撃的な始まりから、B面の2曲目の最終曲「クリムゾン・キングの宮殿」の壮大なラストまで、一寸のスキもなく、圧倒的な迫力と美しさを持って聴くものを打ちのめす、これまでのポピュラー・ミュージック、ロックになかった、まさにプログレッシヴとしかいいようのない作品だと思う。
馬庭教二(まにわ・きょうじ)
1959年島根県生まれ。大学卒業後、児童書・歴史書出版社勤務の後、角川書店(現KADOKAWA)入社。「ザテレビジョン」「関西ウォーカー」「月刊フィーチャー」等情報誌、カルチャー誌編集長を歴任。雑誌局長を経て、現在、2021年室長、エグゼクティブプロデューサー。