最新記事

ロック

「3分過ぎても歌が始まらない!」 あなたは『プログレ』を知っていますか?

2021年6月1日(火)18時00分
馬庭教二 *PRESIDENT Onlineからの転載

ともかく私は、こうしてプログレに出会ってしまった。そして実はこの文章の中にプログレの特徴、聴き方・作法や、時代の空気感が表れていると思うのだ。

プログレッシヴ・ロックの「5原則」

プログレとは何か、簡潔に説明すると以下のようになる。

「プログレッシヴ・ロックとは、1960年代末イギリスで生まれ1970年代に世界中でブームとなったロック・ミュージックの一ジャンルを指す」

その特徴としては、

1.それまでのロックになかった進取で前衛的(Progressive)な思想、手法、スタイルを持つロックを指す。一つのコンセプトに基づく作品のテーマは、収録曲はもとよりタイトルワーク、ジャケットデザイン、ステージ演出などによって表現される。

2.アルバム中心主義であること。アルバムのテーマ曲である10分から20分ほどの長大な作品を核とした構成で、メインとなるテーマを繰り返したり組曲形式をとることが多い。結果、アルバムの最後で、または中核となる作品の最後で主題のメロディが再現されることになる。

3.作品のテーマ(歌詞がある場合、詩の内容)は、人間の根源に迫る哲学的・宗教的なもの、古典的・幻想的・SF的なもの、現代社会を批判したり皮肉ったものなど多岐にわたり、ストレートなラブソングは少ない。

4.音楽的には、クラシック、ジャズ、民族音楽、現代音楽などの影響を受け、そのスタイルはさまざまである。4ビート、8ビートのシンプルなロックナンバーもあるが、3拍子、変拍子、転調を取り入れた複雑な曲も多い。ソウル、R&B、ファンクなど黒人音楽の要素は少ない。

5.ボーカル、エレクトリックギター、ベース、ドラムス、キーボードという一般的なロックバンドの編成が多いが、特にキーボードにおいてはメロトロン、モーグ・シンセサイザーといった当時の最先端の機材の導入に熱心で、フルートやサックス、バイオリンといった、伝統的なロックバンドではあまり使用されない楽器も目立つ。インストゥルメンタルのみ、ほぼインストゥルメンタルというバンドや作品も多い。

プログレの定義と特徴は大体この5つに集約できると思う。私はこれを「プログレ5原則」と呼びたい。

『クリムゾン・キングの宮殿』の衝撃


 King Crimson / YouTube

プログレとして認められている最初の作品は何かといえば、キング・クリムゾンのデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿』("In The Court Of The Crimson King" 1969年10月10日英本国発売、以下同)というのが定説である。

books20210601.jpg無名の新人バンドのデビュー作があのビートルズの実質的最終作『アビイ・ロード』("Abbey Road" 1969年9月26日発売)をヒットチャート1位から蹴落とし、チャートの頂点に立った――という伝説は事実としては誤りである。なぜなら『アビイ・ロード』は英米で最高位1位だが『クリムゾン・キングの宮殿』は最高位全英5位、全米28位であるからだ。

しかしこのアルバムは、ポピュラー・ミュージックの王者にして1960年代の音楽の牽引者だったビートルズ後、間もなく始まる1970年代の新たなロックの道を切り開いた記念碑的な作品であることは、世界中の音楽ファンから認められている。

キング・クリムゾンと『クリムゾン・キングの宮殿』の魅力については『1970年代のプログレ 5大バンドの素晴らしき世界』中で詳述するが、私自身も、アナログ・レコードA面1曲目の「21世紀のスキッツォイド・マン」の衝撃的な始まりから、B面の2曲目の最終曲「クリムゾン・キングの宮殿」の壮大なラストまで、一寸のスキもなく、圧倒的な迫力と美しさを持って聴くものを打ちのめす、これまでのポピュラー・ミュージック、ロックになかった、まさにプログレッシヴとしかいいようのない作品だと思う。

馬庭教二(まにわ・きょうじ)

1959年島根県生まれ。大学卒業後、児童書・歴史書出版社勤務の後、角川書店(現KADOKAWA)入社。「ザテレビジョン」「関西ウォーカー」「月刊フィーチャー」等情報誌、カルチャー誌編集長を歴任。雑誌局長を経て、現在、2021年室長、エグゼクティブプロデューサー。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪ビーチ銃撃の死者15人に、容疑者は父と息子の2人

ビジネス

中国、来年さらに積極財政運営 超長期特別国債発行

ワールド

香港最後の民主派政党解散、中国政府締め付けで活動不

ワールド

ゼレンスキー氏、NATO加盟断念の用意 ドイツで米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中