最新記事

言語学

カタカナ語を使いたがる「よそが気になる」日本人(とドイツ人)

2021年2月5日(金)11時05分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)

「啓蒙専制君主」で知られるプロイセンのフリードリヒ大王(フリードリヒ2世)がフランス文化を愛し、ドイツ語を「馬丁の言葉」といって蔑み、フランス語を話していたのは有名な話だ。

晩年には、小論「ドイツ文学について」をフランス語で書き、その中でドイツ語の響きを少しでも柔らかくしようと、それぞれの動詞に母音を加えることまで提案したという。

フランスに対する思慕はその後も脈々とドイツ人に受け継がれているのではないかと思ったことがある。

ドイツ留学時代、学生寮で一緒だった、フランスと国境を接するバーデン=ヴュルテンベルク州出身の女子学生が、地元では「ダンケシェーン(ドイツ語の「ありがとう」)」とは言わず、「メルシィ(フランス語の「ありがとう」)」と言うのだと自慢げに言っていたのだ。

ドイツ人の「ドイツ語コンプレックス」

しかし、これがドイツ人のフランスへの憧れだけではなく、母語に対するコンプレックスからも来ていると気づいたのは、その後しばらく経ってからだった。「ドイツ語は発音もきれいじゃないし、単語も長くて不細工だ」と言って嘆くドイツ人に何人も出会ったのだ。

実際、ドイツ人は外国語をやたらとしゃべりたがる。国際機関で働くアメリカ人の知人も「ドイツ人しかいない場所でもドイツ人同士で英語でしゃべっている」と言って驚いていた。

確かに、こちらがドイツ語で話しかけても英語で返してくるドイツ人が多いことは前から気になっていたが、要するに英語(外国語)を話すことが好きなのだ。

「よそが気になる」ことにはメリットもある

1998年にJリーグからペルージャに移籍したときの中田英寿選手のイタリアでの記者会見は忘れられない。大勢のマスコミが押しかけて、いきなりイタリア語で質問を浴びせかけていた。

「おれ、わかんないよ、イタリア語」と当惑する中田選手をテレビで見ながら、ドイツ人なら英語で話しかけるだろうと思った。

だが、イタリアの人たちは外国人だろうと誰だろうとまったく気にしない。イタリア語でいいじゃん、だってここ、イタリアだよ。そこには自国に対する無邪気なまでの愛着と自信が感じられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中